GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

NHK『あまちゃん』のテーマを選挙カーが使うことについての著作権的検討

0,導入

まず、このエントリーは選挙カーで音楽を流すことが良いことか悪いことかを示すために書くわけではありません。ましてや、大友良英の意志を否定したり批判したりする意図も毛頭ないことをご理解ください。よろしくお願いします。

また本ブログは法曹関係者ではない個人の趣味ブログです。内容の正確性等は各々で判断してください。



1,事案の整理

社会現象化しているNHKの朝の連続テレビ小説あまちゃん」。その「あまちゃん」のオープニングテーマを作曲した大友良英さんのツイートと、それをエントリーに起こしたブログ記事が話題になっている。

https://twitter.com/otomojamjam/status/345394914206560256
https://twitter.com/otomojamjam/status/345396311446654976

あまちゃんの音楽を選挙公報に使っている政治家の方へ - 大友良英のJAMJAM日記 http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/20130614

大友良英さんはハッキリとあまちゃんのオープニングテーマを政治活動で使うことはやめてほしいと書いている。じゃあそれは著作権法的にそれは可能か。著作権をメインコンテンツとしてるこのブログらしく、それをここでは検討してみたい、というわけです。



2,著作権の状況

著作権法には「著作者人格権」「著作権」「著作隣接権」の大きく分けて3種類の権利がある。JASRACの作品データベース検索で確認すると、『あまちゃんテーマ*1』の作曲者は大友良英さんとなっている。そのためこの曲の著作者は大友良英さんであり、この曲に関する著作者人格権大友良英さんが持っていることになる。一方で、信託状況は「全信託」とされているため、著作権JASRACにある*2。つまり、『あまちゃんのテーマ』の著作権JASRACにあり、大友良英さんは著作権者ではないことになる。

選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流すというのは演奏にあたるため、著作権に関しては「演奏権*3」が問題になる場面と思われる。



3,大友さんは権利主張できるか

上で確認したとおり、『あまちゃんのテーマ』の演奏権を含む著作権を有しているのは大友良英さんではなくJASRACのようだ。大友さんは演奏権を持っていないため、演奏権にもとづいて法的に選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を用いることをやめさせるよう求めることはできないと考えられる。

一方で、大友さんが有している著作者人格権についてはどうか。はてなブックマークのコメントでも

仮にJASRACが許諾していたとしても著作者人格権は別扱いなはず。著作者が直接申し入れてもやめないなら裁判沙汰にできる案件だと思う。肖像権なら眞鍋かをりが政治ポスターに無断使用され(事務所は許諾)た事例が。2013/06/14

という意見があり、著作者人格権によってなにかを求めることができるか検討する余地はある。

著作者人格権とは「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種類からなる。このうち既に公表されているため公表権は問題にならない。氏名表示権はどうか。間違いなく選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流しているときに作曲者である大友良英さんの紹介を一々してはいないだろう。そのため氏名表示を怠っているとも言える。ただ、19条3項は

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

という例外事由を認めている。要件は「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」と「公正な慣行に反しない限り」の2つだ。条文を素直に読むと2つの要件はどちらも充足していなければならないように読めるが、ここは学説でも意見が分かれているようだ。BGMの場合は氏名表示を省略してよいという説*4、2つの要件は選択的でどちらかを充たせばよいという説*5などがあるようで、現実的にはこれを厳密に適用することは困難だろうというものがあるようだ。

次に同一性保持権についてはどうか。場合によっては都合のいい長さに切除したり、音楽にかぶせて演説をしたりして改変が加えられている可能性は十分ある。ただ同一性保持権についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は認められるため、こちらも問題にならないのではないかと想像する。



4,そもそも許諾を得ていたのか?

JASRAC著作権者であったとして、『あまちゃんのテーマ』を使った人や事務所はJASRACから許諾を得て、使用料を支払って使っていたのか、無断で勝手に使ったのではないか。という疑念は大いにある。しかし、各所で指摘があるように非営利の演奏については著作権の制限がかかっている。

第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(中略)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。

要件は、非営利・無料・無報酬。このうち営利性について争う余地がないわけではないといえなくもいないかもしれないが、顧客誘引性の観点やお金の流れから言ってちょっと無理筋ではないかと思う*6

なので、そもそもJASRAC管理だろうが著作権を大友さんが持っていようが、著作権の行使は難しい案件だと思う。




5,まとめ

大友良英さんも著作権的な観点については意識してらっしゃるであろうと思う。著作権という言葉は一度も使っていないし、文中においても"個人的にメールを出し、理解していただき、政治の広報に使うのをやめてもらいました"と丁寧に書かれているように、使わないでくださいとお願いしているのだ。お願いするのは自由だし、作者が嫌がってるのに権利侵害してないから使っていいだろ!ってなるのはギスギスしてて望ましくないと思う。作者がそう言っているなら、使わないようにしたほうがいいだろう。

ただ、流行の曲を使っている「候補者はクズ」という第三者のコメントの意味は全く分からない。






【追記】

https://twitter.com/karafuto1979/status/345530428976926720


【追記2】
原盤権はJASRAC関係ないだろ!みたいな意見を見かけたのですが、原盤権の内容を確認したほうがいいですよ。今回問題になっているのは選挙カーで音源を再生すること = 演奏ですが、レコード製作者の権利(原盤権)に演奏権は含まれていません。

もし、仮に原盤権が問題になったとして、常識的に考えて原盤権を大友良英さんが所有している可能性は極めて低いです。iTunesの表示によるとリリースはビクターエンタテインメント社なので、普通はビクターエンタテインメント社が原盤権者ですよね。

*1:作品コード:192-4067-8

*2:「信託譲渡」といわれ、著作権の所有自体はJASRACに移りJASRAC著作権者であるが、その利用による利益はJASRACに信託した人に与えられる

*3:著作権法22条

*4:加戸守行「著作権法逐条講義」P167

*5:渋谷達紀「知的財産法講義 2」P197

*6:そういえば公職選挙法ではウグイス嬢に報酬を支払うことは許容されていたはずなので、ウグイス嬢が歌ってたらダメ

人権や改正を語る前に知ってほしい、たった3つの憲法のこと

1,憲法は国民を縛る鎖ではない

もう、言いたいことはこれに尽きるかも知れない。”憲法は国民を縛る鎖ではない”と。ホントにこれ。憲法は国民が国、国家を縛る鎖であって、国が国民を縛る鎖ではないのです。これが他の普通の法律と違うところだと思います。他の法律は、日頃接する多くの法律は私たち国民を縛ります。やれ自動車は時速60km以上で走るな、やれ万引きするな、やれ路上喫煙するな、やれ未成年で飲酒やタバコするな、やれ消費税払え、やれ違法ダウンロードするな、と。でも憲法は違う。

そもそも、どうして法律が私たち国民を縛ることができるのかというと、それはその法律が憲法の枠組みの中に収まっているからに他ならないです。行政の行いもそう、憲法の枠内でのみ国は何かが行えるんです。

つまり、憲法とは国民が国を縛るための鎖だということ。

乗馬を想像してください。騎手が国民です。馬が国家です。鞍が法律です。そして、手綱が憲法です。騎手は馬に乗って楽できますし行きたいところに行けます*1。しかし、馬だって突然暴れだすかもしれないし、自分が行きたいところと違う方に走りだすかも知れないので、手綱を持って馬をコントロールしなきゃダメなんです。主権者は国民で、主人は国民なのだから。

主権者である国民が選挙を通じて国に立法や行政、司法を預けるに於いて、最低限守らせるルールが「憲法」。だから国民に何かをさせようと「憲法」を位置づけるような議論があれば、まぁそれは憲法というものがどういうものだかわかってないんだろうなぁ、ということになります。

〜追記〜
ちなみに、政府の統治を憲法に基づき行う原理で、政府の権威や合法性が憲法の制限下に置かれていることに依拠するという考え方を「立憲主義」と言います。自民党憲法起草委員会の事務局長だった礒崎陽輔議員はご存じなかった*2ようで、非常に心配しています。


2,人権とは与えられるものではない

どっかの議員さんが「フルスペックの人権」なる意味不明の概念を出してきたり*3、どっかの芦部直弟子を自称する議員さん*4が権利を得るのは義務を果たしたものだけだと言い出したりしておりますが、人権はなにものかに与えられるものではないというのが近代以降に於ける”常識”です。

特に自然権などは前国家的権利とも言われたりするようで、国家がなくてもそもそも人間が人間として持っていると哲学する権利で、国家がなくても持っている権利を国家から与えられるというふうには考えられないですよね。自然権が国家から与えられるものではなく、そもそも国家という概念以前から存在している人間の権利だとしたら、それはどういうことか。これを有するのは”国民に限られない”ということです。

1で書いたことと併せると、国が国民に権利を与えているわけではなく、憲法は国民が有している人権を侵してはいけないということを「保障」しているわけです*5

日本国憲法第11条

国民*6は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。


だから、人権にフルスペックもクソもないし、義務を果たしてこその人権なんてことも考えられないわけです。


〜余談〜
人権教育なんてものがある。私が小さい時は道徳の授業で人権について教わり、反差別や平等について扱った覚えがあります。自由だとか平等だとか、それは憲法に書いてますが表面的にはその人権と憲法の人権とは違うと思います。なぜなら、道徳が説く人権が私たちが誰かと接するときに現出ものであるのに対し、上に書いたとおり憲法は国家と国民との間での取り決めだからです。

世の中には人権教育に対して嫌悪感を持つ人もいるようですが、あなたが嫌悪している人権と憲法の人権を混同すると大変なことになりますよ?


3,国が憲法を変えたいと言い出している意味を考えるべき

憲法は国民が国を縛る鎖だという話をしました。手綱だと。縛られているのは国です。その国が自分を縛っている鎖を変えたいと言い出しているとすれば、それはどういう意味なのかよく考える必要があると思います。手綱を緩めると馬は暴れだすかもしれませんよね。じゃじゃ馬なら暴れるでしょう。従順でよく懐いた馬なら、もっと速くもっと快適に走ってくれるかもしれないです。

私は憲法改正には反対じゃないです。鎖が緩んでいる箇所もあるし、錆びてる箇所もある。嵌め直しが必要なところや擦れて馬体に無理を強いているところもあると思います。でも、私たちは私たちが主人であり、体を預けている馬が暴れ出さないように手綱を持っている張本人だという意識を持って上手く前に進まなきゃダメだろうと思っています。

鎖を取り替えるなら、それは縛られている方ではなく縛っている私たちがその仕事を担うべきです。

*1:鞍が法律だという意味は考えてみてください。鞍が騎手に及ぼすメリットとデメリットを。

*2:自民党憲法起草」委、事務局長、「礒崎陽輔」議員に関する法律関係者のコメント http://togetter.com/li/311536

*3:生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない--参議院議員世耕弘成 | トレンド | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト http://toyokeizai.net/articles/-/9611/

*4:片山さつき議員「芦部先生の直弟子」発言まとめ - Togetter http://togetter.com/li/419568

*5:余談ですが、生活保護で取り沙汰される「生存権」は自由権的な側面と社会権的な側面の両方を併せ持つと言われています。生きる権利は国があろうがなかろうが人間が持つべき権利として前国家的ですが、一方で社会保障として国家を介してこれを実現するための生活保護は国家の存在を前提としている点で後国家的です。

*6:11条や憲法第3章表題には「国民」とあるが、これが単に日本国民のみを指すのは不適切であり、日本国民のみを指すのではないという解釈は通説でありもはや常識と化しています。このような実際の運用と文言の齟齬を解消するために憲法改正は必要かなと私は思います。

【おしらせ】カズワタベ(kazzwatabe)さんをお呼びしてお話を伺う著作権勉強会特別編を開催します。


3月31日に著作権の勉強会を開催します。既に過去に何度かに渡って開催してきましたが、今回は【特別編】を開催しようかと思っています。ゲストの方をお呼びして、お話を伺う機会、作ってみたかったんですよね!

今回は、カズワタベさん(@kazzwatabe)に来ていただこうかと思っています。


なにを伺うか・・・この件についてです!

カズワタベ(@kazzwatabe )さんの楽曲が著作権侵害された件について まとめ - Togetter


大まかな顛末についてはコメント欄でご本人が報告なさっていますが、質疑応答も予定しつつ差し支えない範囲でお話を伺えられればなぁ、と考えております。

上記の事案の概要は、某テレビ局が報道番組のコーナーでカズワタベさんらが創作した楽曲が使われていたというものです。この楽曲は著作権JASRAC等の著作権管理団体に預けておらず、利用に際しては権利者から許諾を得る必要があったところ、カズワタベさんらは特に連絡を受けていなかったことから問題になったものです。

既に無事に和解?に至ったというウワサを聞いていますが、「音楽」の著作物についての権利関係やらJASRAC等の関係やテレビ局での利用やら、具体的な事案に沿って著作権法の理解ができるのではないかと思っています。

たくさんは無理ですが、ほんの少しばかり席に余裕があります。興味をお餅の方がいらっしゃいましたら、是非参加して頂ければと思います。この機会に勉強会にも興味を持って頂ければこれ幸い!

連絡はtwitterにて @sophizm にリプライを送っていただくか、
copibenあっとsophizm.com にメールを送ってください。


日時:3月31日 14時〜
場所:池袋駅そば
参加費:1,000円



なお、カズワタベさんの関係しているwebサービス「hopp」でもコミュニティを開設しています。
https://www.hopp.jp/sophizm/community
こちら、月額500円で勉強会に参加し放題のお得仕様になっていますので、是非利用くださいませ!

著作権法の勉強会を開催して思ったことと反省点。

0,導入

夏くらいから初心者向けに著作権の勉強会を主催しています。対象は、全く著作権法に触れたことがないけど、興味は持ってるって人。全三回で開催した勉強会が一段落したので小括してみようと思います。



1,キッカケ

キッカケは、6月に改正された著作権法で、違法ダウンロードに刑罰が科されることが確実になったから。著作権というのは、極めて生活に密接した法律だと思います。特にネットを使っている以上、これと触れずにいられることなどありえません。けれども、その接近の具合も意識されないまま規制が私生活に及ぼうとしている以上、それを放置してしまうのは一般人にとって極めてリスキーだと思うのです。また、ニコ動やyoutube、それにpixivなどのコンテンツ共有サービスではアーティストやクリエイターとユーザーの境界が曖昧で、二次利用も極めて曖昧になされている現状が、実は法的に危うい場合があるため最低限の知識でも身に着けておけば非商用のコンテンツ界隈がより健全にかつ活発に発展できるのではないか、と考えたためです。



2,勉強会の方法

とはいえ、私は著作権法の研究職に従事していたわけでも教職を経験しているわけでもないので、会を主催するについては気をつけなければならないことがいくつかありました。知識の内容は基礎的なところのみを対象としているためにさほど問題ではありません。しかし、それに対する評価や教え方というのは、ともすると思想的なものを含むため、ある程度慎重にしなければならないところです。そこで、今回の勉強会は文化庁が公開している著作権法のテキストを用いました。これはネットにpdfとして公開されているため無償で手に入れることができます。文化庁のテキストから離れないように気をつければ、思想的に偏ったものを仕込んでしまう可能性を和らげることができるはずです。また、参加者の負担を高めることは参加へのハードルを上げてしまう恐れもあったの、この方法を採りました。

文化庁のテキストは薄いので、該当箇所を一度読んでから参加してもらう形にしました。その場で読んでも構わないとは思いましたが、一度頭に入れておいてもらい、疑問などの当日に共有するようにしたかったからです。そして、当日はテキストにある内容を著作権法の「条文」に従って確認し、疑問や代表的な裁判所の判断を提供して、法律の中身を形作るようにしました。


3,反省点

全三回で、第一回の範囲を「著作者、著作物」、第二回を「著作権著作権の制限」、第三回を「保護期間、救済方法、判例」と区分けして行いました。が、しかし、詰め込みすぎた感があったと思います。あくまで基本的な部分のみを伝えるつもりでしたが、それでも少し厚みがあったと思います。もう少し表層的な部分に押しとどめる必要があるかもしれません。


4,改善方法

初心者向けの勉強会は繰り返し繰り返し行なっていきたいと考えています。微力ながら、多くの人の役に立てるように活動していきたいです。上記の反省点は次回で改善したいと考えています。さしあたって、次回からはテーマを決めて、そのテーマに沿った内容で会を開きたいと思います。例えば「音楽」と著作権法の関係であったり、「イラスト」と著作権法の関係であったり、「映画」と著作権法の関係であったりです。音楽をテーマにした場合、本筋では上映権や頒布権などの著作支分権は関係ないので、ざっくりと捨てちゃって必要な範囲で取り上げる形にできるかと思います。


5,判例勉強会

初心者向けの勉強会と並行して、判例の勉強会も開始しています。こちらは、最近の判例をキャッチアップできるようにすることが最終目標で、いまはそのための事前知識をつけるための基本的な判例を扱っています。


6,次回のお知らせ

次は年明けに二回目の初心者向け勉強会(第一回)を開催する予定です。日程は以下のとおり。もし少しでも興味が有るってかたは@sophizm宛に連絡いただければと思います。よろしくおねがいします。
・日付:1月20日
・場所:麹町
・テーマ:音楽

JASRACが雅楽の公演に突っかかるのはおかしい!がおかしいたった一つの理由。

0,導入

タイトルは、一回やってみたかっただけ!
話題になってますね。

いつものとおり2ちゃんねるに拡散して、Yahoo!ニュースにもなっちゃってます。完全にJASRAC悪者だわ。でも、JASRACは普通に仕事しただけじゃないの?


1,JASRAC著作権使用料を請求したのか

幸いなことに、ツイートを投げた岩佐堅志さんが憤りつつも正確な日本語を使っているので説明がしやすいですが、おそらくJASRACはおかしくない。むしろこれを元にした2ちゃんねるスレタイまとめサイト、ニュース記事がおかしい。岩佐氏のツイートには”著作権使用料を請求”などとは書かれていない。

正しくは”著作権使用料を申告しろ”だ。

どう違うか。
著作権使用料を請求するということは、JASRACが管理している楽曲が当該公演で演ぜられたことがある程度確定しており、使用された楽曲に対する著作権使用料を支払えという要求だ。一方で「申告しろ」というのは、当該公演でJASRACが管理している楽曲を用いたのであればそれを申告しろ、という意味。その上で管理楽曲を用いていたのであれば著作権使用料が請求される。

ただJASRACが管理している楽曲を用いたかどうかの確認したに過ぎない。



2,JASRACは雅楽を管理していないのか

上のようにJASRAC著作権使用料を請求したわけでなく、JASRACが管理している楽曲を用いたかどうかの確認のために電話を入れたに過ぎないだろう。しかし、”千年前の音楽”である雅楽をJASRACが管理しているわけがないから、そのような問い合わせをJASRACがすること自体がおかしいという趣旨の批判も見て取れる。

上記のニュース記事でも

なお、JASRACが定める著作権の保護期間は、「原則として作家の死後50年まで」としている。

という記述がドヤ顔で書かれている。横道に逸れるがこれはやばい!著作権の保護期間はJASRACが定めているらしい!やばい!!

確かに著作権法は作家の死後50年を著作権の保護期間としている。雅楽は千年前の音楽だから保護期間50年の著作権JASRACが管理しているわけがないのか。いや、そんなわけはない。クラシック音楽は6世紀頃からあるらしいが、だからといってクラシックの楽曲が全て著作権切れなわけがない。

雅楽というジャンルが千年前からあることと、その曲が千年前からあることは別だ。

公演で用いられた「雅楽」の演目に用いられる楽曲の作者がまだ存命で、または死後50年を経過していない場合はなお著作権は保護されている。JASRACにも雅楽の管理楽曲は登録されている。例えば武満徹氏の作曲した「秋庭歌」という楽曲はJASRACに信託されている*1
*2


3,JASRACは何がしたかったのか

上述の通り、JASRACは岩佐氏の公演でどのような楽曲が用いられたかの確認がしたかっただけに過ぎないはずだ。雅楽を「がらく」と読むのは論外だし、上から目線というのは岩佐氏の印象だから如何とも言い難いが、JASRACは端的に通常の業務を行なっていただけだ。

むしろ、「雅楽のコンサートだからJASRAC管理楽曲は使われていないはずだ」という思い込みで業務を行うほうがよっぽど問題ではないか。どれだけ雅楽を作曲しても、JASRACは雅楽が千年前の音楽だから著作権はないはずだと言って請求しなかったら作曲者はトバッチリも甚だしいだろう。

JASRACから電話掛かってきたのはこれで三度目”というところに絡んでいる人もいる。この点は明らかではない。今回、問い合わせられた公演について三度も電話がかかってきたのなら、演目を伝えたにも関わらずしつこく問い合わせを繰り返していたとすると、その意図は不明だ。しかし、岩佐氏の公演、過去の公演も含む通算として三度目であれば、それはなんらおかしいところはない。むしろ当然の業務であることは、上に書いた通りで責められるところがない。

どちらであるか、twitterで岩佐氏にreplyを投げており、返信があれば追記するが、おそらくは後者であろうと推察される。JASRAC著作権トロールかなにかと勘違いしてる人が多いのか知らないが、自分が管理していない楽曲の使用料を請求しようとするわけがないだろう。ヤクザじゃないんだから。


4,まとめ

JASRACはムチャクチャなことしてる」という思い込みと
「雅楽に著作権があるわけがない」という先入観で、
あなたが嫌いなJASRACを叩けて楽しいですか?

本当にJASRACの何がダメなのか分かって嫌ってますか? なんとなく空気に流されて嫌って批判してませんか?









追記(2012/12/13 15:15)
わりと爆発してしまったので追記。
上にも書いてますが、雅楽を「がらく」と読むのは論外です。それに、公演の演目を普通に調べればある程度分かるだろうし、怠ったのかという指摘も最も尤も(ただしこれは抜き打ちでチェックかけていたのかも?)だと思います。で、当の岩佐氏が怒るのは理解できます。それはそれとして怒りが正当かというとちょっと違うだろう、と。加えて、それを傍から見てる人が嬉しそうに叩くのは全く違うだろう、と思うわけです。怒るのがおかしいとは言ってなくて、雅楽なのにJASRACが出張るのはおかしいというのはおかしいと、そう言いたいだけです。

*1:作品コード 096-9697-1

*2:不本意ながら引用としてYoutubeの動画を貼り付ける

保護期間延長は既にある著作権には何の創作的インセンティブも与えない

0,導入

2010年、ダウンロードが違法化された。

2012年、違法ダウンロードに刑事罰が付いた。

次は何か。



1,TPP

現在、日本は公式にTPPへの参加を目指している。私は総論としてのTPPには賛成ではあるが、各論、特に知財分野の内容については反対だ。著作権でTPPが与えるであろう影響は3点。

  1. 保護期間の大幅延長
  2. 非親告罪
  3. 法定賠償金

このうち、保護期間の延長について。日本では映画を除いて著作権の保護期間は50年だ。映画の著作物の著作権は2004年に50年から70年に延長されている。TPP参加で映画の著作物以外も70年に延長するよう外的に求められるだろう。「公的に」「外国から言われて」というのに日本は弱い。


2,延長のさせ方がおかしい

延長そのものの是非はとりあえず置いておいて、延長のさせ方に異議を唱えたい。

延長のさせ方には大きく分けて3つの方法が考えられる。

  1. 今ある著作権とこれから出てくる著作権の保護期間を70年にする
  2. これから出てくる著作権の保護期間を70年にする
  3. 既に切れた著作権も70年未満のものについては70年まで復活して延長される

2004年に映画の著作物の著作権保護期間延長で採られたのは1の方法だ。アメリカでもEUでも延長で採られた方法は1だ。「ミッキーマウス延命法」と揶揄されるところからも明らか。しかし、1が採られる理由は明らかではない。なぜ2ではダメなのか。むしろ、2であるべきではないのか。

著作権の保護期間を延長するとどのようなメリットがあるか。一番大きいのは長期に渡って保護され、子の代、孫の代までも見据えた収入の道を確保することによって、創作のインセンティブを高め、もって「文化の発展に寄与する」ことだろうか。

なるほど、一理あるようにも思える。たくさんお金もらえるならそれだけ創作を志す人が増え、人が増えれば文化の発展にも寄与するかもしれない。お金は大事だもんね。ただ、インセンティブが高められるのは延長後の創作のみだ。時が不可逆なら既にある著作権の保護期間を延長しても過去の創作にインセンティブを与えることはありえない。

大人に「テストでいい成績とったらボーナスあげる」って言っても小学校時代の成績は上がらない。


3,なんのための延長か

6年前の「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」のシンポジウムで保護期間の延長を強く主張する日本文藝家協会副理事の三田誠広氏は次のように述べている。

「保護期間が死後50年では、作家が若死にすると、著作権が切れる時点で奥さんやご子息がご健在な場合が多い。だから死後70年に延長すべきだ」

「(若死にした太宰治著作権が切れそうになったころ)未亡人や娘の作家・津島佑子さんはどちらもご健在だった。津島さんは今後40年は生きるでしょうから、30年以上も著作権が切れた状態で生きていくことになる」

著作権は個人の権利であり、個人の権利を平均値で語ることはできない。慎重な議論というが、議論しているうちに著作権が切れる遺族が出てきてしまう」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/

また、著作権に厳格な立場として有名な漫画家の松本零士氏も

「(年若くして倒れた)先人たちの遺族から『私の主人の著作権はあと数年で切れます』と訴えられたら、どんな気持ちがすると思いますか」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/

と述べている。

この二人は保護期間延長推進で常に最前列で発言してきたように記憶している。しかしおもしろい。「これからの創作」ではなく「今までの財産をどう延命するか」に主眼があることを隠そうとしていない。

さらに、5年前の文化庁文化審議会著作権分科会で三田氏は

「多くの著作者はお金のためではなく、評価されたい、リスペクトを受けたいという夢を持って創作しており、それが創作意欲になっている」として、インセンティブという言葉はもっと幅広く捉えてほしいと訴えた。

と述べており、東京大学中山信弘教授(当時)の、

「ヒアリングやこれまでの話を聞いていて、著作権法の基本的な構造を理解していない方があまりにも多いことに驚いた」

「議論している著作権の保護期間は、著作財産権の問題。リスペクトといった話は著作人格権の問題だ。世界的に見ても、期間の問題がリスペクトの問題であるといった話は聞いたことがない」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/

というコメントが心に沁みる*1


4,話題の天賦人権説と著作権

著作権は天に賦与された権利ではない。むしろ逆だ。著作権は国に賦与された権利なのだ。著作権に関与して、生業にしている人はおそらく意識していないだろうが、著作権というのは「表現の自由」に対する制約なのだ。表現の自由を含む自由権こそは前国家的に生まれながらにして人間が持っている「人権」で、著作権は許諾なくして自由な表現をすることができない人権制約と言える。その権利の制約は「文化の発展に寄与する」ことを目的とする範囲に於いて認められるに過ぎない。

創作のインセンティブに資さない既にある著作物の著作権保護期間を延長するということは、すなわちその延長の期間中の国民の表現の自由を侵害するということを意味する。国民の損失をもって著作権者の子どもや孫を養えというのだ。


5,まとめ

  • 保護期間延長は既にある著作権には何の創作的インセンティブも与えない
  • 著作権に関する規制強化の流れでは「国民の表現の自由を奪っている」という事実に無頓着すぎる

*1:ちなみに著作物の2次利用許諾が古いものほど取得が難しく、保護期間が延長されればさらに難しくなることについて三田氏は「保護期間延長で困る人もいることは確かだ」と語り、著作者不明の場合に利用できる裁定制度の手続きを簡単にすることや、権利者のデータベースを作り、簡便に許諾を取れるシステムを構築することなどを改めて提案している。そして、現に著作権団体17法人で組織する「著作権問題を考える創作者団体協議会」が2009年1月23日、権利者情報を提供するWebサイトを開設している。同サイトでは協議会の活動内容や提言のほか、権利者の所属団体を検索するデータベースを公開していたようだが、2012年12月10日現在、このサイトは消滅してる。どうするの?

アニメのキャプチャ画像をダウンロードすると違法になるの?


0,導入

いつもの屁理屈です。
服用には用法用量をご注意ください。



1,違法ダウンロード刑罰化とは

言うまでもなく10月1日にとうとう施行された違法ダウンロードの刑罰規定導入。どうにも杜撰な文言の条文だということは過去に指摘しましたが、今回も刑罰規定の不明瞭な部分と文化庁のQ&Aについて妄想してみたいです。

まずはいつもの条文

著作権法第119条第3項
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

省略します

私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金。


2,漫画本を撮影した動画は刑事罰の対象にならないらしい

文化庁による違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A(※pdf注意)では、Q2において

なお、例えば、市販の漫画本を撮影した動画が、刑事罰の対象に当たるのではないかとの問い合わせがありますが、漫画作品自体が録音・録画された状態で提供されているものではありませんので、有償著作物等には当たりません。

なる記載があります。

「漫画作品自体が録音・録画された状態で提供されているものではない」から有償著作物等には当たらないとのこと。有償著作物等とは、

  1. 録音され、又は録画された著作物又は実演等
  2. 有償で公衆に提供され、又は提示されているもの

と定義づけられている。

文化庁の解釈によると「有償で公衆に提供され、又は提示され」たときに「録音され、又は録画された著作物又は実演等」であれば有償著作物等で、それ以外は有償著作物等に当たらないということではないかと想像できます。



3,アニメのキャプチャ画像は有償著作物等か

では、アニメのキャプチャは有償著作物等か。ここでは当該アニメが既にDVDなどで市販されている(=有償で公衆に提供され、又は提示されている)ものを前提とします。

当該アニメは

  • 録音され、又は録画された著作物

ですし、上記の通り

  • 有償で公衆に提供され、又は提示されているもの

です。

この定義で言えば当然アニメは有償著作物等ということになる。



4,アニメのキャプチャ画像をダウンロードすると罰則があるか

端的に言えば、ない。「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を行った」という行為が処罰対象なので、画像のダウンロードは「録画*1」には当たらない。



5,漫画本を撮影した動画との違い

実際にはまずありえないが、例えばアニメのキャプチャ画像を動画撮影した場合、果たしてその動画が刑事罰の対象となるのか。上記の通り、アニメのキャプチャ画像は有償著作物等に該当する可能性があるし、それを動画撮影したものをダウンロードする行為は「「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録画」に当たるので、119条3項に該当しそうだ。

漫画の動画撮影はOKで、キャプチャ画像の動画撮影がNGだとしたら、なにか少しおかしいものを感じる。



6,余談

セル画はどうか。

もうここまでくると訳が分からない。セル画単体で見るとこれは絵画の著作物と言えるので、録画には当たらず有償著作物等ではないため、処罰の対象からは外れるように思える。一方でアニメという録画物の一部であるなら、それは録画に当たり有償著作物等になるのではないか。そもそも、キャプチャ画像は有償著作物等でセル画は有償著作物等じゃなかったり、キャプチャ画像は有償著作物等なのにセル画を写真に写したらそれは有償著作物等じゃなかったりとなると、なにがなんだか訳が分からない。

そもそもの原因は、有償著作物等の定義が自動公衆送信されているデータの形式ではなく、有償で販売されている際の形式を基準としているため、対象を狭める意図とは違うところで対象が変に広くなってしまう可能性があるのではないかと思う。

ちなみに、有償著作物等は音楽に関しては「録音」なので、楽譜のみ販売されている音楽の著作物を演奏したものを録画し、アップロードされたものをダウンロードしても、それは有償著作物等には当たらないために罰則の対象にならないはず。つまり、音楽の著作物では、有償著作物等とされるためには常に演奏/実演が伴っているということ。



7,まとめ

ホントによく分からない条文だと思います。

*1:録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。