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GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

日本版フェアユース成立過程との対比に見る違法ダウンロード刑罰化の異常さ。


0,導入

著作権法改正案が衆院で可決された。

同法案には違法ダウンロード刑事罰化が潜り込んでいるが、違法ダウンロード刑事罰化の法案内容は政府提案の改正案ではない。政府提出の改正案を採決する直前に、自民党公明党刑事罰化を盛り込む修正案を提出し、修正案を含む改正案が可決された形になる。

違法ダウンロード刑事罰化は、自民党公明党が推し進めたものだ。もちろん、民主党の側としても「消費税の増税案を通すため」という御題目のために「違法ダウンロード刑事罰化法案」の丸呑みをした点で責められるところが十二分にある。同時に、それを人質に刑事罰化を意地でも通した自公も責められよう。



さて、違法ダウンロード刑事罰化が政府提案の改正案ではない、と最初に書いたのには意味がある。つまり、今に至っては違法ダウンロード刑事罰化の日陰に隠れてはいるが、本来的に通そうとしていた著作権法改正案があったわけだ。

政府案では、

  1. いわゆる“写り込み”等に係る規定
  2. 国立国会図書館によるデジタル化資料の自動公衆送信に係る規定
  3. 公文書等の管理に関する法律に基づく利用に係る規定
  4. 技術的保護手段に係る規定

が含まれていた*1



1,フェアユース規定の存在

ここで着目したいのは1の「いわゆる“写り込み”等に係る規定」だ。コレは何か。以前、『フェアユース』と呼ばれていたものだ。法案上の具体的内容を以下に見てみる。提出時の法案から引用したものだ。読み飛ばして構わない。

 (付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 (検討の過程における利用)
第三十条の三 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 (技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)
第三十条の四 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。
 第三十一条の見出し中「複製」を「複製等」に改め、同条第一項中「この項」の下に「及び第三項」を加え、同項第一号中「全部」の下に「。第三項において同じ。」を加え、同項第三号中「図書館資料」の下に「(以下この条において「絶版等資料」という。)」を加え、同条第二項中「又は汚損を避けるため、当該原本」を「若しくは汚損を避けるために当該原本」に、「ための」を「ため、又は絶版等資料に係る著作物を次項の規定により自動公衆送信(送信可能化を含む。同項において同じ。)に用いるため、」に改め、同条に次の一項を加える。

相変わらず、条文自体を見ても意味がわからないことでお馴染みの著作権法らしい内容となっている。要するに3種類、

  1. 付随対象著作物の利用
  2. 検討の過程における利用
  3. 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用

細かいところは福井弁護士の説明に任せる*2として、これが「かつてフェアユースと呼ばれたもの」の成れの果てだ。

フェアユースとは何か。

著作権者の許諾なく著作物を利用しても、その利用が4つの判断基準のもとで公正な利用(フェアユース)に該当するものと評価されれば、その利用行為は著作権の侵害にあたらない。このことを「フェアユースの法理」とよぶことがある。

フェアユース - Wikipedia

『権利制限の一般規定』とも言われる。ざっくり言うと、特定の事象に関わらず一般的にある要件を満たせば著作権者の許諾なく勝手に著作物を利用しても怒られない、ということ。「特定の事象に関わらず」というのが重要で、柔軟な運用が期待でき、法律制定時には予想もされなかった利用方法であっても、利用を制限されない可能性を担保できる*3

翻って今回の法案に見られる「かつてフェアユースと呼ばれたもの」は、上記3点のみの利用を可能にしたに過ぎない。もはや「権利制限の一般規定」ではなく単なる『個別規定』でしかない。フェアユース導入の論議は、最終的に骨抜きになったと言える。



2,フェアユース規定成立への経緯

どのような経緯で骨抜きになったか。

発端は2008年に遡る。2008年4月に設置された「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」において検討がなされた。その結果、同年11月には「権利制限の一般規定(フェアユース)を導入することが適当」とする報告書がまとめられた。

これを受けて、翌2009年に知的財産戦略本部決定として「知的財産推進計画2009」において「導入に向けて早急に措置を講ずる」こととなった。また、同年5月からは文化審議会著作権分科会における検討が開始されている。分科会では、法制問題小委員会の形で7〜9月の会合で関連団体・企業の担当者を招き、立法事実の有無や導入の必要性の有無についてヒアリングを実施している。また、これに関するパブリックコメントも募集して、結果として94の法人・個人から254通の意見が寄せられていたようだ。

さらに翌2010年には、権利者団体やコンテンツプロバイダーなど一般規定に関連のある団体や企業を対象に、追加のヒアリングを行い最終報告を取りまとめている。なお、法制問題小委員会ではワーキンググループにおいて大学教授、弁護士、法務省検事、裁判官などの中立的立場の識者を集めて検討を行なっていた。

ところが、同年2010年12月、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会は最終的に権利制限の一般規定について、もはや一般規定と題目を建てるのは難しい程度に限定された最終まとめを公表した*4。ここに至って、知的財産戦略会議の提案とは裏腹にフェアユースが骨抜きにされることになった。

そして、このまとめに即した形で著作権法改正の政府案が作成、先日衆議院で可決された。


ここで重要なことはいくつかある。

  • 概括的な計画の下、発案された
  • 4年に渡る検討を繰り返してきた
  • 中立的立場の識者による検討を行なってきた
  • 権利者のみならず関係する団体や企業のヒアリングを行なってきた
  • パブリックコメントを通じて国民の声に耳を傾ける態度を示した

といったところであろうか。

最終的に、骨抜きにされたことは、ここでは問題にしない。



3,違法ダウンロード刑罰化への経緯と対比

他方、自民公明がねじ込んで、可決させた「違法ダウンロードの刑事罰化」は、どのような経緯を辿ったか。

違法にアップロードされたコンテンツを、違法なアップロードだと知ってダウンロードすることが著作権侵害になったのは、2010年だ。ダウンロード違法化自体、喧々諤々の議論を得て法制化されている。今回は、それに刑事罰がついた形となる。

つまりたった2年で2年前には否定された刑罰化が実現されたわけだ。今回は、RIAJを始めとする音楽業界の権利者サイドが、杉良太郎を担ぎだして議員に直接大々的なロビーイング活動を行ったと言われている。

フェアユース規定との対比ではこうなる。

  • 概括的な計画などの検討が国策レベルでされた実態はない
  • 違法化から僅か2年、実質的なロビーイングは半年から1年程度
  • 権利者サイドのロビーイングに基づき、権利者サイドの提出して違法ダウンロードの統計、並びに、権利者サイドが算出した発生損害額のみを拠り所にし、国や党や議員として自主的に統計並びに算出を行わなかった
  • 中立的立場の識者や、利用者、関係する団体や企業へのヒアリングもない
  • パブリックコメント募集などなく、権利者以外の声に耳を傾ける態度も示していない

この違法ダウンロードの刑罰化を主とする修正案、自民公明の発案に対して4月17日の民主党・文部科学部門会議では反対意見が多数占めたようで、このときは水際で食い止められた*5。自民公明が党レベルで決定した修正案を、民主党が潰した形になる。





5,〆

ここで示したように、違法ダウンロード刑罰化を巡る問題点というのは、小寺氏が指摘するような「議員立法だから」ということではない。

しかもこの改正は、議員立法で行なわれようとしている。国民の意見が反映されるチャンスはないのだ。権利者側は、タレントの杉良太郎氏を連れて議員を周り、オジチャンオバチャン議員を骨抜きにしている。そういうやり方で、効果があるかどうかわからないような法規制が行なわれて、日本という国は大丈夫なのか?
【特別寄稿】踏みにじられたユーザーの意見、暴走するダウンロード刑罰化 - 小寺信良(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス) -


『お前らもっとちゃんとよく考えろ!』

ということに尽きる。刑事罰化ですよ、今まで犯罪じゃなかったことが犯罪になるんですよ、下手したら犯罪者になって「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科せられるわけですよ。ちゃんと検討しましたか? 多くの国民が突然牢屋に入れられる危険に晒されるようになるわけですが、それで「文化の発展に寄与する」んですか? 「文化の発展に寄与する」ってなんですか? ちゃんと検討しましたか?




つまりそういうことです。