GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

youtubeを見て著作権侵害で逮捕されることは本当にないのか。

0,導入

本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。

御存知の通り*1、先日、違法ダウンロードに刑事罰を科す著作権法改正案の修正案が自民党及び公明党によって提出され、衆議院並びに参議院にて賛成多数を得て可決された。今回の改正案の修正案が異例とも言える経緯を辿ったことは書いた。また、その内容が随分と不確定であることも書いた

今回は、この法律改正が、どの程度影響が及ぶのか、youtubeを例に取って改正法の解釈検討を行なってみたい。なお、違法ダウンロード刑罰化の対象となるのは「録音」と「録画」であるが、特に問題にされる「録音」、、、つまり音楽に主眼を置く。


1,youtubeの権利処理について

著作権について

youtubeでは、音楽著作権は適切に処理されている。まず、2008年にyoutubeジャパン・ライツ・クリアランスJRC)と国内で初めて包括利用許諾を締結しており*2、同年、イーライセンスと利用許諾契約を締結している*3。その後、JASRACとも利用許諾条件の合意に至っている*4

つまり、CD化されているような一般的な楽曲は著作権利用許諾を受けており、「著作権」的に違法にアップロードされた音楽著作物というのはそう多くない。


レコード製作者の権利について

著作権については上述の通り権利処理されている。しかし、youtubeで権利処理されていないものがある。それは「著作権法」に定められているが「著作権」とは異なる権利で、「著作隣接権」と呼ばれる権利だ。音楽について言えば、最も重要なのは「レコード製作者の権利」だ。原盤権とも呼ばれる。

音楽をレコードやCD、音楽配信等の形で販売するためには、対象となる音楽を録音する作業に加え、録音レベルの調整やエフェクトの追加などの多くの作業(いわゆるマスタリング)が必要となる。その際、演奏者や歌手などの実演家、音楽の編集作業を行うマスタリングエンジニアなど、多くの人間が作業に関わり、それらの作業に伴う多額の費用が発生する。このような作業に必要な費用を負担する代わりに、最終的に完成した原盤に関する権利を取得する仕組みとして生まれたものが原盤権である。

原盤権 - Wikipedia

そしてこの原盤権を持つのは、一般的にレコード会社といわれるところだ。


うたってみた

CDを音源とする音楽はレコード会社が原盤権を持っており、かつyoutubeは原盤権処理をしていないので、ユーザーがCD音源をyoutubeにアップロードするにはレコード会社の許諾を個別に受けておく必要がある。権利者の許諾を受けずにアップロードする行為は、著作隣接権を侵害する。

一方、楽曲を自分で演奏したり、自分で歌ったりしたものを録音した場合、その録音にかかる原盤権は録音をした人に発生し、当然レコード会社には発生していないので、録音した人が自らそれをyoutubeにアップロードしても著作隣接権を侵害しない。もちろん、著作権法も侵害しない。


まとめ

CD音源をyoutubeにアップロードする行為は著作隣接権を侵害し、アップロードされた動画は「違法コンテンツ」ということになる。なお、以下に出てくる条文は「著作権」についての条文だが、「著作隣接権」でも準用されているため、特に断りが無い限り条文で「著作権」という場合は「著作隣接権」を含むこととする。


2,違法動画の閲覧は違法ダウンロードじゃないのか

刑罰化以前から、つまりダウンロード違法化の議論がなされていたころからyoutubeの視聴はダウンロードじゃないのか、という指摘がなされていた。今回の刑罰化に際しても、その疑問が再度呈されることになっている。なにせ逮捕されちゃうかもしれないわけで。なにせ「二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金」に処されちゃうかもしれないわけで、他人ごとじゃない。

なぜ視聴が問題になるのか。
ダウンロードといえば「名前をつけて保存」とかそういうのを思い浮かべるが、youtubeではストリーミングだし特に保存行為をしているようには見えない。しかし、wikipediaによるとyoutubeのストリーミングは「プログレッシブダウンロード」と呼ばれ、パソコン内の一時フォルダに動画が「保存」されるようだ。キャッシュとしてPCの内に残る。そのため、形式的にはyoutubeを視聴するだけでコンテンツがパソコンにダウンロードされることになる。

文化庁も「違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A*5」に於いて、「「You Tube」などの動画投稿サイトの閲覧についても、その際にキャッシュが作成されるため、違法になるのですか。」という項目を置いて説明している。

これによると

違法ではなく、刑罰の対象とはなりません。
動画投稿サイトにおいては、データをダウンロードしながら再生するという仕組みのものがあり、この場合、動画の閲覧に際して、複製(録音又は録画)が伴うことになります。しかしながら、このような複製(キャッシュ)に関しては、第47条の8(電子計算機における著作物利用に伴う複製)の規定が適用されることにより著作権侵害には該当せず、「著作権又は著作隣接権を侵害した」という要件を満たしません。

という説明がなされている。

第47条の8があるから大丈夫(キャピ)と。

条文見てみましょう。

(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。
(平二一法五三・追加)

これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る
トートロジーっすね。見事に。

第47条の8によると、使用や利用が著作権侵害でない場合、一次キャッシュを作成することは許されるとしている。ちなみに、利用とは著作権の権利内容についてで、例えばコピーするとか上映するとか、貸すとかで、使用とは利用に限らず例えば読むとか見るとか住むとか聴くとかのことをいう。

ダウンロード違法化によって、私的使用であっても違法コンテンツだと知ってする複製は著作権を侵害することとなったため「利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合」には当たらなくなった。30条第1項第3号のせいで47条の8の適用が受けられなくなったのに、47条の8があるから30条第1項第3号には該当しないとか、いわゆるひとつの無限参照?

実際に逮捕されるかどうかは別にして、youtubeを見るのが犯罪にならないとは言い切れないと思います*6

あ、この記事読んじゃうと「違法性の意識の可能性」があるってなって故意阻却もされないかもしれないですね。



3,公式動画について

youtubeには音楽のPVなどが公式にアップロードされている場合がある。例えば

ワーナーミュージックの公式動画だ。だからこれを見たからといって犯罪になる可能性は全くない。

じゃあ、公式PVは違法コンテンツじゃないのだから、(キャッシュじゃなくて)動画を抜き出してダウンロードして保存してもいいのか。

後述する問題点を除けば、これは著作権法的な問題点は存在しない。

ただし、youtube利用規約に抵触する可能性がある。利用規約では「お客様は、本サービス自体の動画再生ページ、Embeddable Player、又はその他YouTubeが明示的に認めた手段以外のあらゆる技術及び手段を通じて、 本コンテンツにアクセスしないことに合意します。」*7とあり、また「お客様は、「ダウンロード」または同様のリンクが本コンテンツについて本サービス上でYouTubeにより表示されている場合を除き、いかなる本コンテンツもダウンロードしてはなりません。」*8と明記されている。

しかし、これについても疑問がないわけではない。利用者は「いつ利用規約に同意したのか」という点で。youtubeアカウントを取得していれば利用規約に同意しているだろうが、youtubeはアカウントがなくても視聴できるため、アカウント取得していない利用者が利用規約に同意する余地はないのではなかろうか。同意がなければ、当然、利用規約に拘束されるものではない。

なお、規約違反は契約違反であって犯罪にはならない。


ところで、、、、

約一年前にTUBEFIREというyoutubeの動画ダウンロード支援サイトがレコード会社30社および音楽出版社1社からダウンロードサービスの停止並びに損害賠償約2億3千万円を求める訴訟を提起されている*9。TUBEFIREはサーバサイドでyoutube動画を変換してダウンロード可能にさせているため、一時的にサーバに動画ファイルが複製される。またその複製物が送信可能状態に置かれており、これらが複製権及び送信可能化権を侵害していると主張されている。TUBEFIREは反論しているが、恐らく侵害は認められるのではなかろうかと思われる。*10

注意すべきは、TUBEFIREに動画ファイルが複製され送信可能化された時点でTUBEFIREサーバ内の動画ファイルは著作権を侵害する違法コンテンツになりうる。そのため、それをダウンロードする行為はyoutubeから直接ダウンロードするのとことなり「違法コンテンツのダウンロード」となり刑事罰適用の対象になる可能性がある。つまり、犯罪かもしれないということ。

もちろん、TUBEFIREは現在閉鎖されている。しかし、同様のサービスは他にもあると考えられる。このようなサービスを用いてダウンロードを行うことはリスキーであり、やめておくほうがいいと思う。しかもそれは国外のサーバ、国外のサービスであっても同じだ。なぜなら違法ダウンロードは「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む」からだ。


4,結論

私の考える結論。

公式PVなどを見るのは全く大丈夫。

非公式にアップロードされたCD音源やPVを見ると、犯罪にならないとはいいきれないかもしれない。こわい。