GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

長谷川豊さんの著作権の話

こんな記事が出ていたので取りあえず……。一応、著作権の資格は持ってないけど、人間として、解説だけしときます。参考までに。

堀江さんの著作権の話

堀江貴文さんが近畿大学で自身の行ったスピーチが全文書き起こされて憤慨してることについて、長谷川豊さんが著作権の解説をしてるんですよね。わずか54行のブログ記事なのに、ため息なしには読み続けられない内容なんです。
ここでポイントは長谷川豊さんが明かしているんですが…

・スピーチの著作物性
・引用の成否
著作者人格権の侵害

とかいろいろそれっぽいこと記しているんですが…いやいやいやいや(苦笑)。これはちょっと認識が全然間違っていましてですね……

●今回の説明は単に完全にダウトです
まず、皆さんもちょっと意外な感じがするかもしれないんですが、著作権法の2条の18項ってのがありま……せん。著作権法の第2条は9項までしかないので、長谷川豊さんが見ている著作権法は日本の著作権法ではない可能性がありますね。著作権法第2条の第1項には18号があって、そこには「口述」の定義が書いてあるため、長谷川豊さんの書いていることに類似していますが、そのことなのかどうか著作権の資格を持たない私にはちょっと判断が難しいです。

で、著作権法第2条第1項第18号には

「講演会とかで話した内容=著作物」

なんて書いてません。条文にはこうあります。

口述 朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう。

ここにあるのは「口述」の著作権法上の定義で、著作物の内容に講演会とかで話した内容が含まれると明記するものではないはずです。そもそも「著作物を口頭で伝達すること」が「著作物」の定義だとすると、トートロジーじゃないですかー。

「口述」とは行為態様で、著作物とはあくまで

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

という第2条第1項第1号の規定に集約され、それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもないです。つまり、堀江さんのスピーチが著作物かどうかは講演会で話した内容であるかないかではなく、単純に話されたスピーチの内容が「著作物」の定義に合致するかしないかでしかないです。

「講演会とかで話した内容=著作物」なのは、堀江さんのスピーチが思想又は感情を創作的に表現したものに他ならないからです。

なぜ長谷川豊さんが、著作物に当たるか当たらないかの判断で著作物の定義ではなく、著作物の例示を書いた10条でもなく、アレを示したのか、不思議です。

ちなみに、「報酬を得た上で発している言葉」かどうかは著作物の成否に全く関係無いですね。

●以下、気になるところを列挙

堀江さんが著作権者に該当しますので、堀江さんに「公表権(=18条)」や「公衆送信権(=23条)」っていう権利があるんです

公表権は著作権ではなく「著作者人格権」です。堀江さんに公表権があるのは著作権者だからじゃなくて、著作者だからです。

・個人的に使う=これはですね、全く問題ないです。個人的であればね。著作権法30条に書いてあるんですけれど、何の利益目的でも何でもない場合は、許可はとらなくても問題ない

趣旨としては誤ってないとは思うんです。ただ、私的使用に利益目的かどうかは直接的には関係ないです。多くの場合、利益目的での複製が私的使用になることはないと思いますが。

32条に記載されている「引用」っていう条項が該当するんです。報道や批評のために、あくまで「参考」として活用する場合は認められます。これらの場合に関しては
「記事全文の中の3分の1以内に収めましょう」
ここだけ抑えておけば、一応は大丈夫、というのが通説となっています

著作権クラスタ、大激怒ですね、これは。どこの通説だよ。「引用は1/3まで」とか「メロディーのパクリは4小節まで」とかは、それ、通説じゃなくて俗説ってやつですよ。

引用については近年その要件の変革*1があるものの古典的には

  1. 既に公表されている著作物であること
  2. 「公正な慣行」に合致すること
  3. 報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
  4. 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  5. カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
  6. 引用を行う「必然性」があること
  7. 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

という要件が言われています。文化庁のリンクも貼っておきます(当然1/3なんて文言はない)。

「著作人格権の侵害」
っていう行為に該当する

”著作人格権”という言葉が何度か出てくるけど、正しくは「著作者人格権」です。

勝手に内容を改ざんしたり、切るべきところで切らずに書き起したりしてる行為は「同一性保持権」や「翻案権」という、ちょっと難しい言い方をするんですけれど、とにかく著作権違反の行為となります。こうなると「引用」は適応されません

これ、著作者人格権の話で出てきてますが、翻案権は著作者人格権じゃないです。また、”勝手に内容を改ざん”や”切るべきところで切らず”が翻案に必ずしも当たらない場合が多いと思います。とくに切り取りについては翻案ではなく「複製」の場合が多いんじゃないでしょうか。複製だともちろん引用による利用はできるので、誤解を生む書き方です。


著作権の資格とは

長谷川豊さんが持ってらっしゃる「著作権の資格」というものが何なのか知っておきたいですねぇ。その資格の証明する著作権理解には、少々警戒が必要かもしれませんので。


●でもね……

書いてることは無茶苦茶に見えても、結論において概ね間違いはないと思うんです。ここでのツッコミは全体かれ見れば重箱の隅をつつくようなことなのかもしれませんね。堀江さんのスピーチはおそらく著作物だし*2、堀江さんのスピーチを堀江さんから許諾を得ずに書き起こしたりネットにアップしたりするのは著作権侵害だし*3、正しく引用できれば無許諾でも著作権侵害にはならないし*4、著作者の意図に反した改変を加える事は著作者人格権の侵害になり得るし*5

講演の書き起こしについては、以前も某書き起こしサイトが無許諾だと本人に突っ込まれたりしており、あまりに簡単に権利を踏みにじったりしている現状も確かにあるわけです。(根拠や説明は間違っているけど)言いたいこと伝えたいことは誤っていないと思います。自戒を込めて。



もはや私は専門職ではないただの著作権フリークなので、専門家が専門家としての矜持で口を差し挟まないようなゲスいところにはむしろ口を出していこうかなというのが、このブログの思うところです。

*1:鑑定証書カラーコピー事件知財高裁判決 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/755/080755_hanrei.pdf

*2:説明が間違ってるけど

*3:説明に誤りが含まれてるけど

*4:説明が間違ってるけど

*5:説明に誤りが含まれてるけど