GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

著作権法30条1項3号を読み上げると著作権が発生するのか。

先日、ここでもとりあげたRIAJ主催の著作権法30条1項3号読み上げコンテスト、声優の林原めぐみさんがカオスユニークな読み上げをして、本題とは別筋で妙に盛り上がりつつあるようです*1


ところで、キャンペーンの募集要項によると

応募作品の著作権は応募者に留保されますが、以下の内容で、無償で利用されます。
 キャンペーンサイトを含む当協会ウェブサイトへの掲載(優秀作品のみ)
 当協会機関誌への掲載(優秀作品のみ)

となっており、読み上げた作品(?)の著作権が気になるところ。読み上げごときに著作権が発生するのか、そもそものところから少なからず疑問に思うわけです。


そこで、少し考えてみるに、

  1. 著作権法第30条第1項第3号は著作物か
  2. 著作権法第30条第1項第3号の読み上げは著作物か

の2点が大きな問題として有りそうに思えます。


まず、著作権法第30条第1項第3号が著作物か。この点からして一大論点で、中々難しいものを孕んでいるんじゃないかな。
著作権法第13条第1号によると、

(権利の目的とならない著作物)
十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
 一 憲法その他の法令

と書いてあって、法令には著作権が発生しないことが明らかなのね。でも、このことから法令の「著作物性」が否定されるわけではないので、結局、当該法令が”思想又は感情を創作的に表現したもの”と言えるかどうかを検討してみないことには始まらない。私の環境では法令に著作物性が認められた判例や裁判例があったのか見つけることができなかったんだけど、ある知財の教授にTwitterで質問をさせてもらったところ、「規範内容さえ決めればシンプルな表現なので、創作性は微妙」という”感想”を頂いた。感覚的にもそれほど高尚な表現でなく、法律上保護すべき要請が高い表現ではないと私も思うので、著作物性は認められにくいのではないかなぁと思うわけです。




で、じゃあ、仮に著作権法第30条第1項第3号に著作物性が認められたとして、その読み上げに著作権が発生するの?ってところ。例えば『音楽』には著作権があって保護されてるけど、音楽の著作権というのは「音の羅列」(及び場合によっては歌詞)そのものに発生していて、それを誰が歌唱しようが歌唱自体に別途著作権が発生することはまずないかと。誰ひとりとして実際に歌っていなくても、音楽に対する著作権は発生しうるわけです。同じように、文学作品の朗読も朗読者の個性は表れていないと評価され、創作性が認められないため朗読者の著作物としては保護されないはずです。読み上げたもの(を録音や録画したもの)が、著作権法第30条第1項第3号自体の著作物と別途の著作物と言えるために重要なのは、その読み上げ自体に「創作性」が加味されているか、というところ。そのためには、創作ダンスをしながら読み上げるとか、自作の音楽にのせて読み上げるとか、そういうレベルのことをしないと難しいはずです。その意味では、林原めぐみさんの読み上げに著作権が発生してないんじゃないかしら。


著作権」とは著作権法21条から28条までに規定する権利のことを言う(17条)ので、よっぽどのことがないかぎり応募作品に著作権は発生せず、募集要項にある規定はどのようなものを想定したのかしら?ということに。

とはいえ、著作権法著作権ではないが、読み上げについても保護しているわけで。いわゆる著作隣接権の実演家の権利。そこで、今ひとつはこの実演家の権利が発生するのか、検討してみる必要があります。



著作権法第4章第2節は実演家の権利について定めています。実演及び実演家とは

著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)

俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者


おそらく、著作権法第30条第1項第3号の読み上げは実演なので、応募者は実演家の権利を持っているんじゃないかなと思います。ここで問題になるのは、著作権の目的とならない(13条1号)著作物が、隣接権の目的となるか。つまり、仮に著作権法第30条第1項第3号が著作物であったとしても、13条1号が著作権は生じないよ!と言っているのに、隣接権を与えて良いのかという法問題に突き当たります。これ、しっかりと検討すると論文書けちゃいそうなのであまり深く考えませんが、条文をそのまま文面通り捉えるならば隣接権の成立は否定していないので隣接権が成立すると言えることになるんだろうな、と。ただ、著作権を間接的に保護しようとする著作隣接権の趣旨に鑑みれば、著作物自体が保護されていないのに、その隣接領域を保護する必要性は低いと判断してもおかしくないのだと思います。13条の趣旨を見ても、否定する方向に働くでしょうね。




で、結局どうなるかというと、

  1. もし著作権法第30条第1項第3号に著作物性があって
  2. さらに13条の存在にも関わらず隣接権が否定されないなら

応募者に「実演者の権利」が発生する可能性があるわけです。



応募要項に書いてある「著作権は応募者に留保されるが、以下の内容で、無償で利用されます」という文章から、著作権についての利用許諾だけでなく、著作隣接権の許諾も与えたと読み取ることができるのかしら??

*1:本当か?!