保護期間延長は既にある著作権には何の創作的インセンティブも与えない
0,導入
2010年、ダウンロードが違法化された。
2012年、違法ダウンロードに刑事罰が付いた。
次は何か。
1,TPP
現在、日本は公式にTPPへの参加を目指している。私は総論としてのTPPには賛成ではあるが、各論、特に知財分野の内容については反対だ。著作権でTPPが与えるであろう影響は3点。
- 保護期間の大幅延長
- 非親告罪化
- 法定賠償金
このうち、保護期間の延長について。日本では映画を除いて著作権の保護期間は50年だ。映画の著作物の著作権は2004年に50年から70年に延長されている。TPP参加で映画の著作物以外も70年に延長するよう外的に求められるだろう。「公的に」「外国から言われて」というのに日本は弱い。
2,延長のさせ方がおかしい
延長そのものの是非はとりあえず置いておいて、延長のさせ方に異議を唱えたい。
延長のさせ方には大きく分けて3つの方法が考えられる。
2004年に映画の著作物の著作権保護期間延長で採られたのは1の方法だ。アメリカでもEUでも延長で採られた方法は1だ。「ミッキーマウス延命法」と揶揄されるところからも明らか。しかし、1が採られる理由は明らかではない。なぜ2ではダメなのか。むしろ、2であるべきではないのか。
著作権の保護期間を延長するとどのようなメリットがあるか。一番大きいのは長期に渡って保護され、子の代、孫の代までも見据えた収入の道を確保することによって、創作のインセンティブを高め、もって「文化の発展に寄与する」ことだろうか。
なるほど、一理あるようにも思える。たくさんお金もらえるならそれだけ創作を志す人が増え、人が増えれば文化の発展にも寄与するかもしれない。お金は大事だもんね。ただ、インセンティブが高められるのは延長後の創作のみだ。時が不可逆なら既にある著作権の保護期間を延長しても過去の創作にインセンティブを与えることはありえない。
大人に「テストでいい成績とったらボーナスあげる」って言っても小学校時代の成績は上がらない。
3,なんのための延長か
6年前の「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」のシンポジウムで保護期間の延長を強く主張する日本文藝家協会副理事の三田誠広氏は次のように述べている。
「保護期間が死後50年では、作家が若死にすると、著作権が切れる時点で奥さんやご子息がご健在な場合が多い。だから死後70年に延長すべきだ」
「(若死にした太宰治の著作権が切れそうになったころ)未亡人や娘の作家・津島佑子さんはどちらもご健在だった。津島さんは今後40年は生きるでしょうから、30年以上も著作権が切れた状態で生きていくことになる」
「著作権は個人の権利であり、個人の権利を平均値で語ることはできない。慎重な議論というが、議論しているうちに著作権が切れる遺族が出てきてしまう」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
「(年若くして倒れた)先人たちの遺族から『私の主人の著作権はあと数年で切れます』と訴えられたら、どんな気持ちがすると思いますか」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
と述べている。
この二人は保護期間延長推進で常に最前列で発言してきたように記憶している。しかしおもしろい。「これからの創作」ではなく「今までの財産をどう延命するか」に主眼があることを隠そうとしていない。
「多くの著作者はお金のためではなく、評価されたい、リスペクトを受けたいという夢を持って創作しており、それが創作意欲になっている」として、インセンティブという言葉はもっと幅広く捉えてほしいと訴えた。
「ヒアリングやこれまでの話を聞いていて、著作権法の基本的な構造を理解していない方があまりにも多いことに驚いた」
「議論している著作権の保護期間は、著作財産権の問題。リスペクトといった話は著作人格権の問題だ。世界的に見ても、期間の問題がリスペクトの問題であるといった話は聞いたことがない」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
というコメントが心に沁みる*1。
4,話題の天賦人権説と著作権
著作権は天に賦与された権利ではない。むしろ逆だ。著作権は国に賦与された権利なのだ。著作権に関与して、生業にしている人はおそらく意識していないだろうが、著作権というのは「表現の自由」に対する制約なのだ。表現の自由を含む自由権こそは前国家的に生まれながらにして人間が持っている「人権」で、著作権は許諾なくして自由な表現をすることができない人権制約と言える。その権利の制約は「文化の発展に寄与する」ことを目的とする範囲に於いて認められるに過ぎない。
創作のインセンティブに資さない既にある著作物の著作権保護期間を延長するということは、すなわちその延長の期間中の国民の表現の自由を侵害するということを意味する。国民の損失をもって著作権者の子どもや孫を養えというのだ。
5,まとめ
*1:ちなみに著作物の2次利用許諾が古いものほど取得が難しく、保護期間が延長されればさらに難しくなることについて三田氏は「保護期間延長で困る人もいることは確かだ」と語り、著作者不明の場合に利用できる裁定制度の手続きを簡単にすることや、権利者のデータベースを作り、簡便に許諾を取れるシステムを構築することなどを改めて提案している。そして、現に著作権団体17法人で組織する「著作権問題を考える創作者団体協議会」が2009年1月23日、権利者情報を提供するWebサイトを開設している。同サイトでは協議会の活動内容や提言のほか、権利者の所属団体を検索するデータベースを公開していたようだが、2012年12月10日現在、このサイトは消滅してる。どうするの?