GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

恨むなら著作権法を恨め。JASRACじゃなく、法律を。

という記事を書こうと思っていた。


私は現在の日本に著作権法に不満がある。

だから著作権法を勉強したりした。

不満があるからこそ、その不満の根はどこにあるのか、その不満は正当なのか。学がなければ問題意識も持てない。そうして聞きかじった知識で少しばかり分かってきたことは

JASRACは悪の組織じゃない

ということ。もちろん、細かいところでは問題がある。法律の解釈にむちゃくちゃな理屈を持ち込んで、しかもそれを裁判上で認めさせてしまったり、実務上の合理的判断から100%公平な運営ができなかったり、そういう細かい問題は無数にあるが、いずれもテクニカルで実務的な論点で、一般に分かりやすく「ザ・悪」みたいなことはそう多くないようだ、と印象を持った。異論、反論が山のように飛んできそうだけど。。。

JASRAC著作権法に従って活動している。

著作権法が定め、司法が認めた範囲でしか活動していない。法律の範囲を超えて暴利を貪っているわけではない。もし、JASRACがしていることに反感があるのなら、それはJASRACが悪いんじゃなくて著作権法がそうなっているのが悪いはずだ。逆に、著作権法がそうなっているとしても細かい部分は見逃してくれよ、という気持ちももちろん分からなくもない。しかしそうすると、JASRACに預けている著作権者、権利者が本来もらうべき利益を損なってしまい、そちらのほうが問題だ。端数の10円くらいもらわなくてもいいかなってバイトのレジが勝手に判断したら怒られるように。

JASRACがゴネるから日本ではサービスが開始できない、というのも間違っている。著作権管理団体には「応諾義務」というのがあり、許諾を求められれば必ず許諾しなければならない義務が法律上課せられている。なので、この音楽を使わせてくれと言われれば、JASRACは許諾する。もし、日本で開始されない音楽サービスがあったとしたら、それはJASRACの問題ではなく、著作支分権の問題ではなく、他の権利の権利者の問題だと思ったほうがいい。


JASRACが何らかの強行な手段に出た場合、必ず出てくる「カスラック」論も的外れだ。先日もこんなニュースがあった。

JASRACはBGMを利用していながら音楽著作権の手続きが済んでいない全国の171事業者、258施設(美容室、理容店、アパレル店、飲食店他)に対し、民事調停を全国の簡易裁判所に申し立てました。
全国各地に所在するJASRACの15支部が一斉に法的措置を行うのは、初めてです。BGMを流す施設の著作権管理を開始した2002年当時は、ほとんどの施設が業務用BGMを利用していました。業務用BGMの場合、音源を提供している日本BGM協会及び全国有線音楽放送協会加盟社などが施設に代わってJASRAC著作権の手続きを行っていたことから、適法に利用されていました。
ところが、ここ数年、BGMの音源が多様化(市販のCD、携帯音楽プレーヤー、パソコン、インターネットラジオ等)してきました。こうしたBGMの利用については、利用する施設ごとに個別に著作権の手続きを行っていただく必要がありますが、いまだに手続きが行われていない施設が多く存在しています。
BGMの著作権管理については、管理開始以降、継続して取り組んでいますが、繰り返しの催告にもかかわらず、手続きに応じない施設に対し民事調停の申立てを行いました。
JASRAC:プレスリリース「BGMを利用する全国258施設(171事業者)を一斉に法的措置」

ネットでは、自分でお金を払って買った音楽なのに自由に使えないなんておかしい!という声をよく見た。私もそう思う。自分がお金出して自分のものにしたCDをどう使おうが自分の勝手だろ!という気持ちはすごく分かる。なんで買った音楽を使うときにもう一度お金払わなきゃいけないんだ、と。自分のものは自由に使っていいだろ、と。完全に同意と言わざるを得ない。

しかし著作権法はそれを認めていない。

著作権法がそれを認めていない以上、著作権を預かるJASRACがその違法行為を見逃すのは業務上の信義に悖る。違法状態を放置し、本来得られるべき利益を損なうことは、JASRACがではなく、作詞家や作曲者や著作権者の利益を失することになる。


だから、恨むなら著作権法を恨め。JASRACじゃなく、法律を。と思っていた。そういう記事を書いてもいいと思っていた。

しかし、今日の別のニュースを見て、私はただただ憤りを感じている。それがこれだ。

USENレコチョクは6月15日、店舗用BGM配信サービス「OTORAKU−音・楽−」を発表した。月額3780円(税別)でサービス内に用意されたプレイリストを再生できるというもので、iPad向けアプリ(iOS 8.1以上)として個人事業主を含む法人向けに7月からサービスを提供する。

最近では、BGMを利用していながら音楽著作権の手続きが済んでいないとして、日本音楽著作権協会JASRAC)が6月9日に全国の171事業者・258施設に対して全国の簡易裁判所に民事調停を申し立てを行ったことが記憶に新しい。JASRACは2002年からBGMを流す施設の著作権管理を開始しており、業務用BGMとして音源を利用する場合は店舗ごとに著作権の手続きが必要になる。こうした流れを受け、宇野会長は「各店舗のイメージに合った楽曲を安全に使って空間作りに生かしてほしい」と話す。
違法BGM利用店舗は46万件:「合法的に店で音楽を流せる」 USENとレコチョクがiPad向けに店舗用BGM配信アプリ「OTORAKU」を提供 - ITmedia LifeStyle

タイミングが良すぎる。なんだこれは。JASRACが全国の171事業者、258施設を簡易裁判所に訴えたのが6月9日、USENレコチョクの発表が1週間も経たない6月15日。まるで狙いすましたようなタイミング。まるで見計らったようなタイミング。まるで口裏を合わせていたかのようなタイミング。

ふざけるなと。

いや、見計らったり口裏を合わせていたなんて確証はない。だから、もしも見計らったり口裏を合わせていたとしたら、ふざけるなと言いたい。もしもそうだとしたら、訴訟提起という社会的に暴力性の高い行為に出たのが、新規サービス開始を見越してのことだったとしたら、恫喝的に新規サービスへ誘導しているように見えてしまう。ある意味、新規サービスの広告を訴訟という強硬な手段によって成しているように感じてしまう。訴えられた258施設は生贄じゃないか。258の生贄を墓地に埋葬して新規サービスを召喚ってか?ふざけてる。

福井健策先生は朝日新聞の取材に対して

「啓発や世間へのアピール効果を考えてのことだろう」
無断でBGMダメ! JASRAC法的措置に店は困惑:朝日新聞デジタル

とコメントしている。確かに世間へのアピール効果は絶大かもしれない。

それにしてもしかし、JASRACはいちサービスに対して便宜を図ったと世間に捉えられかねないことをして、大丈夫なのだろうか。


【追記】