Dropboxとかって著作権的には完全にシロだと思ってた。
0,導入
インターネットのクラウドがもてはやされるようになって久しい。DropboxやOneDrive、SugarSyncといったオンラインストレージサービスが欠かせない人も少なくないだろうし、iPhoneを使っている人はiCloudに写真やさまざまなデータを預けている人も多くいるだろう。これらクラウドサービスについて著作権法上の問題点を検討する審議会が去年の7月から数度にわたって開かれていた。
1,ロッカー型クラウドサービスに関する検討
その審議会の名前は「著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」。特にロッカー型クラウドサービスに関する検討が重点的に行われていたようだ*1。
そこではロッカー型のクラウドサービスについて4つの分類をしてそれぞれに著作権法上どういった問題があるのか検討されていたと聞く。
このうち、Dropboxなどのオンラインストレージはタイプ2の「プライベート/ユーザーアップロード型」になる。
2,プライベートで使うロッカーサービスに問題なんて……
そもそもDropboxなんかの個人的に使うためのプライベートなクラウドロッカーサービスに著作権法上の解決すべき問題点なんて存在しないと思っていた。考えうる抵触しそうな著作権法上の権利は
あたりかなと思う。
アップロードに関わりそうなのはローカルからサーバへの複製(複製権)とサーバにファイルを置く送信可能化(公衆送信権)、ダウンロードに関わりそうなのはサーバからローカルへの複製(複製権)と自動公衆送信(公衆送信権)なのだが、これらについては著作権法的に完全にクリアだと私は判断していた。
まず公衆送信に関わる自動公衆送信と送信可能化は、文字通り「公衆」についての権利だ。公衆とは、不特定または多数を指すのが通説で、ある著作物を使う行為が個人的なものであるなら特定かつ少数なので「公衆」には当たらない*2。よって、公衆送信に関しては著作権法上問題ないでしょ、と思うわけです*3。
一方で、複製については小難しいことを考える必要がない。プライベートな複製行為なのだから、まさに「個人的に又は家庭内そのたこれに準ずる限られた範囲内において使用すること」なので、私的複製で完全にセーフだ。セーフだ。
ちがうのか!
3,私的複製には当たらない……かも?
上に書いた審議会のやり取りを見るまでは完全にセーフだと思っていたし、そうだと完全に信じきっていた。あまりにも単純にど真ん中で私的複製に見えたので、著作権的に問題があるわけないだろうと思い込んでいた。
思いがけない条文を見逃していたようだ。
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
こういう単純なものを見逃していたことを記事にするのは大変恥ずかしいのだが、読み逃しがちな条文に足を取られてしまった。30条1項1号は派手なタイプの条文じゃなかったので思い至らなかった。恥ずかしい。
確かに、確かに、だ。確かに、送信は公衆に対してなされているものではないけれど、クラウドロッカーサービスで使われているサーバ自体はまさしく「公衆の使用に供することを目的として設置されている」装置に相違ない。なので、サーバを介してなされる複製行為は私的複製による権利制限の例外事由にあたり、私的複製ではない、という結論になってしまう。
いやぁ、知らなかった。これを知ったときホントに
(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー !! (`・д´・ (`・д´・ ;)
ってなりましたよ。
4,審議会での結論
このタイプ2について、審議会ではどういうまとめがなされているか。
ロッカー型クラウドサービスにおけるサーバーが公衆用設置自動複製機器に該当するか否かについては,[1]該当するとの見解,[2]該当しないとの見解がそれぞれ示された。
権利者からは,[1]該当するとの立場から,公衆用設置自動複製機器を用いた複製について権利者の許諾が必要とされているのは,第三者の関与と当該第三者が利益を享受しているという観点が重視されているのであって,ロッカー型クラウドサービスにおけるサーバーも同様の観点から,公衆用設置自動複製機器に当たらないという整理でいいかは疑問である,との意見が示された。
こうした意見に対して,有識者からは,以下の意見等,[2]該当しないとの立場からの意見が示された。
- 公衆用設置自動複製機器を用いた私的使用目的の複製を権利制限の対象としないこととした趣旨は,立法当時,高速ダビング機器等が,業者がコピーする代わりに利用者にさせるという一種の法律回避のために利用されていたため,そうした事態に対処するものであり,クラウド上のサーバーは想定されていなかった。
- ロッカー型クラウドサービスにおけるサーバーで行われる複製は,家庭内にあるハードディスクの延長線上にあるものであると考えれば,家庭内での複製とある程度等価ととらえることができるため,高速ダビング機器の場合とは事情が異なるのではないか。
文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会 クラウドサービス等と著作権に関する報告書(案)
と両論併記しつつ
以上のように,タイプ2の枠内で行われる利用行為については,基本的には,利用行為主体は利用者であり,当該利用者が行う著作物の複製行為は,私的使用目的の複製(第30条第1項)であると整理することができ,権利者の許諾を得ることは特段不要であるとの意見が示された。
文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会 クラウドサービス等と著作権に関する報告書(案)
以上の議論等を踏まえた結果,現時点においては,タイプ2について,権利制限規定の創設等,法改正を伴う制度整備を行う必要性は認められなかった。
文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会 クラウドサービス等と著作権に関する報告書(案)
と結論付けている。よく分からん。
文面通り受け取れば許諾なければ違法だけど、権利制限や法改正されるのも面倒だから見なかったことにしよう、ってことかな。よく分からん。
5,ちなみにコンビニのコピー機は
公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器といえば、コンビニや図書館*4やらに設置されているコピー機はどうなのか、というところが気になる人もいるかもしれない。書籍をコピーするとき、私的複製だからセーフだと思っていたのに、みんなが使えるコピー機でコピーとると1項1号に当たって違法になっちゃうのでは、という懸念。
これに関しては、セーフです。
著作権法の附則に
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二 著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。
という規定があるので、コピー機でコピーをとる分については引き続き私的複製として問題なくすることができますね。
ひるがえって、クラウドロッカーサービスでも問題になるのは文書と図画以外ということ。つまり、音楽や映画、プログラムなんかがもっぱら問題になるのね。