GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

陸上自衛隊が訳詞を無許諾利用?

0,導入

ドイツ語のあとに日本語の歌詞が出てきますが、どう聴いても拙訳です。本当にありがとうございました。

陸上自衛隊音楽隊に「パンツァーリート」の訳をコピペされるw : 「集団音楽」の研究(軍歌ブログ)


このブログの辻田さんが訳した歌詞を陸上自衛隊が本人の了承なしに利用したようです。はてなブックマークのコメントでは、「これは出典明記してないならアウトだなあ……。」というものもありますが、私はパッと見て『営利を目的としない上演等』(著作権法38条)に当たるんじゃないかなと思いました。念のため調べてみると、自分の理解が甘かったことが分かったのでメモ代わりに記事にします。


2,権利制限事由

著作権法第38条第1項
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

営利を目的としない上演等の要件は

  1. 営利を目的としない
  2. 聴衆等から料金を受けない
  3. 実演者等に報酬が支払われない

これらに合致すれば権利者の許諾を受けることなく利用しても著作権侵害になりません。順を追って見てみます。

まず、そもそも辻田さんに権利が帰属するか、ですが、翻訳は27条より二次的著作物の創作に当たると思いますので、翻訳文について辻田さんが著作権者になります。
さて、では今回の陸上自衛隊による上演、いつのものだったか調べてみました。どうやら「平成24年度陸上自衛隊東部方面音楽まつり」でのものだったようです。自衛隊の主催によるものなので営利目的でないことは間違いないので1の要件は充たしています。

また、wikipediaによると

一般観覧は往復葉書およびインターネットによる申し込み制で、抽選で観覧者が決められる*1

とあり、自衛隊のページでも有料である旨の記載はないため、2も充たすかに見えます。少し気になったのはwikipediaにある

館内外では業者により自衛隊グッズや記念品、DVD、カレンダー、菓子や食料品などの販売が行われている*2

という記載。グッズ販売が行われていても「聴衆等から料金を受けない」と言えるのか……と。これについて著作権法コンメンタール

著作物の提供・提示とは無関係に一般に提供される給付の対価は、実費ないし通常料金の範囲にとどまる限り、ここに規定される「料金」には当たらない(p.317)

とあり、問題ないようですね。

次に3ですが、音楽隊に所属する自衛隊員って国からお給料貰ってこの仕事してるわけですよね?自衛隊音楽まつりも趣味でやってるわけじゃなくてお仕事の一環としてしているはずなので、「実演者等に報酬が支払われない」には当たらないのでは???というのが一番気になったところでした。ただ、これについても著作権法コンメンタール

消防庁音楽隊あるいは詩歌を朗読する学校教師の給与は、演奏や口述の行為に対する反対給付とは言えず、著作物の利用行為をめぐる著作者の私益と公益との純粋な調整を妨げるような利潤とはいえない、したがって、そうした給与は、本要件の「報酬」には該当しないものと解すべき(p.319)

とあるため、問題となる可能性は低いかもしれません。

以上より、この自衛隊による上演、演奏は「営利を目的としない上演等」にあたり、著作権者の許諾を得ることなく無断で使っても大丈夫だった、、、という結論になりそうです。



3,余談
ところで
自衛隊音楽まつりの様子はニコニコ生放送Ustreamで生中継されていたらしいんですよね。これは公衆送信権を侵害してる可能性あるのでは・・・?*3

ちなみに
パンツァー・リート自体は1933年の曲なので、作詞者のクルト・ヴィーレにかかる著作権が未だ切れていない可能性はあると思うんですが、翻訳自体が無許諾の可能性が(ry

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/自衛隊音楽まつり

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/自衛隊音楽まつり#.E4.BC.9A.E5.A0.B4

*3:あだちビデオ制作室のDVDにパンツァー・リートは収録されてないし、Youtube自衛隊公式チャンネルでもアップされていない

twitterでのやり取りがブログに延焼していたことに今さら気付いたお話 -電子書籍と図書館貸出に関して-

0,導入

はてブで自分のIDで検索してみたところ、こんな記事を見つけた。

twitterで絡まれて不愉快だった話 | やめたいときは やめるといい。

6月の記事で全然気が付かなかった。今更だけど、反論と釈明をしようと思う。




1,事案の整理

まず、id:the-world-is-yours さんが以下の記事を投下

雑誌のバックナンバーを電子化して図書館で貸し出しって、こりゃ駄目だろ - 世界はあなたのもの。

その中で図書館における電子書籍の貸出が

1人の利用者が借りている間は他の人はその号を閲覧できない。

ことに言及。はてなでも300を超えるブクマがついて話題になっていた。そして、そのブクマコメントの中で id:QJV97FCr さんのコメントが多くのスターを集めていた。



これに対して私が言及したことにより、いくつかのやりとりが発生したらしい。


そして最後にQJV97FCrさんがした以下のツイートを私がリツイートしてコメントを返さず終わっていたようだ。

これについてQJV97FCrさんは

で、なぜかこの返信をretweetして、その後の返信はなくなりました。何だそれ。

retweetするということはこちらの返信は読んでいるわけで、何か問題があるなら言ってくるわけです。そこを何も言わずにretweetだけするということは、「こいつとは話す意味がない」と判断されたと考えるのが普通です。

仮にですがこちらの論理が相手にちゃんと伝わったとして、それなら「わかりました」の一言があってもよいですよね。最初にあんな小馬鹿にした態度で出てきたのはあちらなのだから、謝罪しろまでは言わないけど、理解してもらえたのかどうなのかは知りたいのが人情です。

でもRTだけしてスルーするということは「見ろよ、こいつ馬鹿じゃね?」って言っていることに等しいですよね。少なくともこの流れであれば私はそう解釈します。

と解釈し、ずいぶんと憤っていたようです。



2,私の主張

箇条書きにします

  1. 書籍を電子化した時点で複製です
  2. 電子化したデータを端末にコピーした時点で複製です
  3. 同時に閲覧可能かどうかは複製の有無に影響を及ぼしません(そもそも複製だから)
  4. 複製でも31条の適用があれば許諾は不要です
  5. しかし31条は適用されないはずです
  6. であれば、複製を可能にしているのは許諾契約があるからです
  7. 同時閲覧不可は許諾契約の内容に起因するはずです

以上の理解を前提に、QJV97FCrさんのコメントを読んで疑問に思ったことは

  • 同時閲覧の可否がどのように複製の成否と関係するのか
  • 31条1項の適否はこの事例で問題になるのか

の2点になるかと思います。QJV97FCrさんのコメントでは、同時閲覧できるから複製に当たり、複製だから31条が問題になると読めました。

前者はそもそも『複製』のはずなのに同時閲覧の可否を持ち込む理由が分からず、後者は本件が31条1項の問題なのか?というところ。確かに「2人が同時に見れると複製」というコメントに対してこれを「複数人が同時閲覧できなければ複製にあたらない」とするのは対偶がとれていないため論理的には正しくないです。が、同時閲覧の可否を持ち込む理由が分からないことが主眼なので、どのように書こうがそう違ったことではないのではないかと思います。2人同時に見れようが見れまいが複製であることに変わりはないのではないか、と。

これに対して

今のところ同時閲覧数=冊数として必要なライセンスを用意しましょう

という反応をいただいた。ライセンスを用意するということは許諾の問題のはずなので「つまり31条1項の問題ではないのでは?」とリプライを送った次第です。つまりの繋がりが伝わらなかったようですが、ライセンスの問題なのではないかという当初の私のコメントと相違ないことの確認です。

これに対する「31条1項の範囲を超える」というリプライ自体は、31条1項の適用がないことを前提としている私にとっては、これを全く否定するところではありません。ただ、それでもなお「同時閲覧できたら一冊を二冊に複製しているものと解釈されている」という意味は理解できませんでした。

私はこのリプライを受けて

  • 31条1項に該当しないこと
  • 『同時閲覧可能な状態を複製と捉えると』という前提の提示を受けたこと

の2点をもって満足したため、そのような考えがあることを提示した上で終了しました。リツイートした意図は、当初のコメントがフォロワーへの私の意見表明だったため、それを見た人に対して言及された側の意見も流しておくべきと考えたからに過ぎません。特に晒しや嘲笑の意図がなかったことは釈明させていただきます。

満足した理由は、第一に31条1項に該当しないことが確認できたことで、当初の「31条1項に違反する」という意図が理解できたこと。第二に、複製の定義に「同時閲覧可能な状態」という異なる前提があることを確認することができたことからです。異同が確認できたのでそれ以上の言及は特に必要ないという判断です。

なぜ第二の点について言及が必要ないと判断したかというと、同時閲覧不可能であれば形式的には複製であろうとも、実質的には図書館の『貸し出し』と同一であるとしたい図書館の意図が理解できるからです。貸出業務の一貫として電子書籍を取り入れたいのだろうから『同時閲覧可能な状態であれば貸し出しじゃなくて複製になってしまう(同時閲覧不可は貸出の延長)』という建前を置きたいのだろう、と。たとえそれが形式的には同時閲覧の可否に関わらず複製に当っていたとしても……です*1

それをいやいや違うでしょ!と言っても仕方ないことですし、一方で同時閲覧の可否が結果に影響を及ぼさないという私の理解を翻す意図もないので、対論表記としてリツイートしたまでです。まさかブログに続きがあるとは思ってもいませんでした。




3,ところで、、、

よく分からないのですが「twitterで絡まれて」とあるけど、私は最初の意見についてリプライを送っていません。エゴサーチして探しだしたのはQJV97FCrさんですよね。もちろん、本人が読んでも、そしてそれについて反論があっても対応する覚悟で書いていますからそれ自体は構わないのですが、積極的に絡んで行ったわけじゃないのにそう言われるのは心外ですね。

私のコメントに対してQJV97FCrさんもなぜかリプライではなくてURL表記でツイートしてらっしゃいます。いや、それも構わないですがそれだと私にツイートしたことが伝わらないのに

私としてはすぐに返事してみたつもりなんですが、その日のうちはご返信いただけませんでした。何かよくわかんないし気分は悪いけど面倒にならなくてよかったと思っていました。

ところが、翌日突然返信が。

というのは理解に苦しみますね。私がエゴサーチしない限り見つけられないんですが、QJV97FCrさんの中ではエゴサーチは常にするのが普通だというお考えなのでしょうか?たまたまエゴサーチしたら見つかった*2のでリプライ送ったのですが、QJV97FCrさんが言うようにURLつきツイートが返信だとすると、翻って私のリプライでないツイートをして「絡まれて」と受け取られたのですね。よく分からないです。

4ヶ月も経って突然返信してしまって申し訳ないです。


こちらからは以上です。

*1:という理解は伝えるべきだったかも知れません。不快にさせたことについては謝罪します

*2:実際、ブログの件もたまたまエゴサーチしたら今さら見つかったわけで……

NHK『あまちゃん』のテーマを選挙カーが使うことについての著作権的検討

0,導入

まず、このエントリーは選挙カーで音楽を流すことが良いことか悪いことかを示すために書くわけではありません。ましてや、大友良英の意志を否定したり批判したりする意図も毛頭ないことをご理解ください。よろしくお願いします。

また本ブログは法曹関係者ではない個人の趣味ブログです。内容の正確性等は各々で判断してください。



1,事案の整理

社会現象化しているNHKの朝の連続テレビ小説あまちゃん」。その「あまちゃん」のオープニングテーマを作曲した大友良英さんのツイートと、それをエントリーに起こしたブログ記事が話題になっている。

https://twitter.com/otomojamjam/status/345394914206560256
https://twitter.com/otomojamjam/status/345396311446654976

あまちゃんの音楽を選挙公報に使っている政治家の方へ - 大友良英のJAMJAM日記 http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/20130614

大友良英さんはハッキリとあまちゃんのオープニングテーマを政治活動で使うことはやめてほしいと書いている。じゃあそれは著作権法的にそれは可能か。著作権をメインコンテンツとしてるこのブログらしく、それをここでは検討してみたい、というわけです。



2,著作権の状況

著作権法には「著作者人格権」「著作権」「著作隣接権」の大きく分けて3種類の権利がある。JASRACの作品データベース検索で確認すると、『あまちゃんテーマ*1』の作曲者は大友良英さんとなっている。そのためこの曲の著作者は大友良英さんであり、この曲に関する著作者人格権大友良英さんが持っていることになる。一方で、信託状況は「全信託」とされているため、著作権JASRACにある*2。つまり、『あまちゃんのテーマ』の著作権JASRACにあり、大友良英さんは著作権者ではないことになる。

選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流すというのは演奏にあたるため、著作権に関しては「演奏権*3」が問題になる場面と思われる。



3,大友さんは権利主張できるか

上で確認したとおり、『あまちゃんのテーマ』の演奏権を含む著作権を有しているのは大友良英さんではなくJASRACのようだ。大友さんは演奏権を持っていないため、演奏権にもとづいて法的に選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を用いることをやめさせるよう求めることはできないと考えられる。

一方で、大友さんが有している著作者人格権についてはどうか。はてなブックマークのコメントでも

仮にJASRACが許諾していたとしても著作者人格権は別扱いなはず。著作者が直接申し入れてもやめないなら裁判沙汰にできる案件だと思う。肖像権なら眞鍋かをりが政治ポスターに無断使用され(事務所は許諾)た事例が。2013/06/14

という意見があり、著作者人格権によってなにかを求めることができるか検討する余地はある。

著作者人格権とは「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種類からなる。このうち既に公表されているため公表権は問題にならない。氏名表示権はどうか。間違いなく選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流しているときに作曲者である大友良英さんの紹介を一々してはいないだろう。そのため氏名表示を怠っているとも言える。ただ、19条3項は

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

という例外事由を認めている。要件は「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」と「公正な慣行に反しない限り」の2つだ。条文を素直に読むと2つの要件はどちらも充足していなければならないように読めるが、ここは学説でも意見が分かれているようだ。BGMの場合は氏名表示を省略してよいという説*4、2つの要件は選択的でどちらかを充たせばよいという説*5などがあるようで、現実的にはこれを厳密に適用することは困難だろうというものがあるようだ。

次に同一性保持権についてはどうか。場合によっては都合のいい長さに切除したり、音楽にかぶせて演説をしたりして改変が加えられている可能性は十分ある。ただ同一性保持権についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は認められるため、こちらも問題にならないのではないかと想像する。



4,そもそも許諾を得ていたのか?

JASRAC著作権者であったとして、『あまちゃんのテーマ』を使った人や事務所はJASRACから許諾を得て、使用料を支払って使っていたのか、無断で勝手に使ったのではないか。という疑念は大いにある。しかし、各所で指摘があるように非営利の演奏については著作権の制限がかかっている。

第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(中略)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。

要件は、非営利・無料・無報酬。このうち営利性について争う余地がないわけではないといえなくもいないかもしれないが、顧客誘引性の観点やお金の流れから言ってちょっと無理筋ではないかと思う*6

なので、そもそもJASRAC管理だろうが著作権を大友さんが持っていようが、著作権の行使は難しい案件だと思う。




5,まとめ

大友良英さんも著作権的な観点については意識してらっしゃるであろうと思う。著作権という言葉は一度も使っていないし、文中においても"個人的にメールを出し、理解していただき、政治の広報に使うのをやめてもらいました"と丁寧に書かれているように、使わないでくださいとお願いしているのだ。お願いするのは自由だし、作者が嫌がってるのに権利侵害してないから使っていいだろ!ってなるのはギスギスしてて望ましくないと思う。作者がそう言っているなら、使わないようにしたほうがいいだろう。

ただ、流行の曲を使っている「候補者はクズ」という第三者のコメントの意味は全く分からない。






【追記】

https://twitter.com/karafuto1979/status/345530428976926720

*1:作品コード:192-4067-8

*2:「信託譲渡」といわれ、著作権の所有自体はJASRACに移りJASRAC著作権者であるが、その利用による利益はJASRACに信託した人に与えられる

*3:著作権法22条

*4:加戸守行「著作権法逐条講義」P167

*5:渋谷達紀「知的財産法講義 2」P197

*6:そういえば公職選挙法ではウグイス嬢に報酬を支払うことは許容されていたはずなので、ウグイス嬢が歌ってたらダメ

NHK『あまちゃん』のテーマを選挙カーが使うことについての著作権的検討

0,導入

まず、このエントリーは選挙カーで音楽を流すことが良いことか悪いことかを示すために書くわけではありません。ましてや、大友良英の意志を否定したり批判したりする意図も毛頭ないことをご理解ください。よろしくお願いします。

また本ブログは法曹関係者ではない個人の趣味ブログです。内容の正確性等は各々で判断してください。



1,事案の整理

社会現象化しているNHKの朝の連続テレビ小説あまちゃん」。その「あまちゃん」のオープニングテーマを作曲した大友良英さんのツイートと、それをエントリーに起こしたブログ記事が話題になっている。

https://twitter.com/otomojamjam/status/345394914206560256
https://twitter.com/otomojamjam/status/345396311446654976

あまちゃんの音楽を選挙公報に使っている政治家の方へ - 大友良英のJAMJAM日記 http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/20130614

大友良英さんはハッキリとあまちゃんのオープニングテーマを政治活動で使うことはやめてほしいと書いている。じゃあそれは著作権法的にそれは可能か。著作権をメインコンテンツとしてるこのブログらしく、それをここでは検討してみたい、というわけです。



2,著作権の状況

著作権法には「著作者人格権」「著作権」「著作隣接権」の大きく分けて3種類の権利がある。JASRACの作品データベース検索で確認すると、『あまちゃんテーマ*1』の作曲者は大友良英さんとなっている。そのためこの曲の著作者は大友良英さんであり、この曲に関する著作者人格権大友良英さんが持っていることになる。一方で、信託状況は「全信託」とされているため、著作権JASRACにある*2。つまり、『あまちゃんのテーマ』の著作権JASRACにあり、大友良英さんは著作権者ではないことになる。

選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流すというのは演奏にあたるため、著作権に関しては「演奏権*3」が問題になる場面と思われる。



3,大友さんは権利主張できるか

上で確認したとおり、『あまちゃんのテーマ』の演奏権を含む著作権を有しているのは大友良英さんではなくJASRACのようだ。大友さんは演奏権を持っていないため、演奏権にもとづいて法的に選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を用いることをやめさせるよう求めることはできないと考えられる。

一方で、大友さんが有している著作者人格権についてはどうか。はてなブックマークのコメントでも

仮にJASRACが許諾していたとしても著作者人格権は別扱いなはず。著作者が直接申し入れてもやめないなら裁判沙汰にできる案件だと思う。肖像権なら眞鍋かをりが政治ポスターに無断使用され(事務所は許諾)た事例が。2013/06/14

という意見があり、著作者人格権によってなにかを求めることができるか検討する余地はある。

著作者人格権とは「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種類からなる。このうち既に公表されているため公表権は問題にならない。氏名表示権はどうか。間違いなく選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流しているときに作曲者である大友良英さんの紹介を一々してはいないだろう。そのため氏名表示を怠っているとも言える。ただ、19条3項は

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

という例外事由を認めている。要件は「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」と「公正な慣行に反しない限り」の2つだ。条文を素直に読むと2つの要件はどちらも充足していなければならないように読めるが、ここは学説でも意見が分かれているようだ。BGMの場合は氏名表示を省略してよいという説*4、2つの要件は選択的でどちらかを充たせばよいという説*5などがあるようで、現実的にはこれを厳密に適用することは困難だろうというものがあるようだ。

次に同一性保持権についてはどうか。場合によっては都合のいい長さに切除したり、音楽にかぶせて演説をしたりして改変が加えられている可能性は十分ある。ただ同一性保持権についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は認められるため、こちらも問題にならないのではないかと想像する。



4,そもそも許諾を得ていたのか?

JASRAC著作権者であったとして、『あまちゃんのテーマ』を使った人や事務所はJASRACから許諾を得て、使用料を支払って使っていたのか、無断で勝手に使ったのではないか。という疑念は大いにある。しかし、各所で指摘があるように非営利の演奏については著作権の制限がかかっている。

第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(中略)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。

要件は、非営利・無料・無報酬。このうち営利性について争う余地がないわけではないといえなくもいないかもしれないが、顧客誘引性の観点やお金の流れから言ってちょっと無理筋ではないかと思う*6

なので、そもそもJASRAC管理だろうが著作権を大友さんが持っていようが、著作権の行使は難しい案件だと思う。




5,まとめ

大友良英さんも著作権的な観点については意識してらっしゃるであろうと思う。著作権という言葉は一度も使っていないし、文中においても"個人的にメールを出し、理解していただき、政治の広報に使うのをやめてもらいました"と丁寧に書かれているように、使わないでくださいとお願いしているのだ。お願いするのは自由だし、作者が嫌がってるのに権利侵害してないから使っていいだろ!ってなるのはギスギスしてて望ましくないと思う。作者がそう言っているなら、使わないようにしたほうがいいだろう。

ただ、流行の曲を使っている「候補者はクズ」という第三者のコメントの意味は全く分からない。






【追記】

https://twitter.com/karafuto1979/status/345530428976926720


【追記2】
原盤権はJASRAC関係ないだろ!みたいな意見を見かけたのですが、原盤権の内容を確認したほうがいいですよ。今回問題になっているのは選挙カーで音源を再生すること = 演奏ですが、レコード製作者の権利(原盤権)に演奏権は含まれていません。

もし、仮に原盤権が問題になったとして、常識的に考えて原盤権を大友良英さんが所有している可能性は極めて低いです。iTunesの表示によるとリリースはビクターエンタテインメント社なので、普通はビクターエンタテインメント社が原盤権者ですよね。

*1:作品コード:192-4067-8

*2:「信託譲渡」といわれ、著作権の所有自体はJASRACに移りJASRAC著作権者であるが、その利用による利益はJASRACに信託した人に与えられる

*3:著作権法22条

*4:加戸守行「著作権法逐条講義」P167

*5:渋谷達紀「知的財産法講義 2」P197

*6:そういえば公職選挙法ではウグイス嬢に報酬を支払うことは許容されていたはずなので、ウグイス嬢が歌ってたらダメ

人権や改正を語る前に知ってほしい、たった3つの憲法のこと

1,憲法は国民を縛る鎖ではない

もう、言いたいことはこれに尽きるかも知れない。”憲法は国民を縛る鎖ではない”と。ホントにこれ。憲法は国民が国、国家を縛る鎖であって、国が国民を縛る鎖ではないのです。これが他の普通の法律と違うところだと思います。他の法律は、日頃接する多くの法律は私たち国民を縛ります。やれ自動車は時速60km以上で走るな、やれ万引きするな、やれ路上喫煙するな、やれ未成年で飲酒やタバコするな、やれ消費税払え、やれ違法ダウンロードするな、と。でも憲法は違う。

そもそも、どうして法律が私たち国民を縛ることができるのかというと、それはその法律が憲法の枠組みの中に収まっているからに他ならないです。行政の行いもそう、憲法の枠内でのみ国は何かが行えるんです。

つまり、憲法とは国民が国を縛るための鎖だということ。

乗馬を想像してください。騎手が国民です。馬が国家です。鞍が法律です。そして、手綱が憲法です。騎手は馬に乗って楽できますし行きたいところに行けます*1。しかし、馬だって突然暴れだすかもしれないし、自分が行きたいところと違う方に走りだすかも知れないので、手綱を持って馬をコントロールしなきゃダメなんです。主権者は国民で、主人は国民なのだから。

主権者である国民が選挙を通じて国に立法や行政、司法を預けるに於いて、最低限守らせるルールが「憲法」。だから国民に何かをさせようと「憲法」を位置づけるような議論があれば、まぁそれは憲法というものがどういうものだかわかってないんだろうなぁ、ということになります。

〜追記〜
ちなみに、政府の統治を憲法に基づき行う原理で、政府の権威や合法性が憲法の制限下に置かれていることに依拠するという考え方を「立憲主義」と言います。自民党憲法起草委員会の事務局長だった礒崎陽輔議員はご存じなかった*2ようで、非常に心配しています。


2,人権とは与えられるものではない

どっかの議員さんが「フルスペックの人権」なる意味不明の概念を出してきたり*3、どっかの芦部直弟子を自称する議員さん*4が権利を得るのは義務を果たしたものだけだと言い出したりしておりますが、人権はなにものかに与えられるものではないというのが近代以降に於ける”常識”です。

特に自然権などは前国家的権利とも言われたりするようで、国家がなくてもそもそも人間が人間として持っていると哲学する権利で、国家がなくても持っている権利を国家から与えられるというふうには考えられないですよね。自然権が国家から与えられるものではなく、そもそも国家という概念以前から存在している人間の権利だとしたら、それはどういうことか。これを有するのは”国民に限られない”ということです。

1で書いたことと併せると、国が国民に権利を与えているわけではなく、憲法は国民が有している人権を侵してはいけないということを「保障」しているわけです*5

日本国憲法第11条

国民*6は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。


だから、人権にフルスペックもクソもないし、義務を果たしてこその人権なんてことも考えられないわけです。


〜余談〜
人権教育なんてものがある。私が小さい時は道徳の授業で人権について教わり、反差別や平等について扱った覚えがあります。自由だとか平等だとか、それは憲法に書いてますが表面的にはその人権と憲法の人権とは違うと思います。なぜなら、道徳が説く人権が私たちが誰かと接するときに現出ものであるのに対し、上に書いたとおり憲法は国家と国民との間での取り決めだからです。

世の中には人権教育に対して嫌悪感を持つ人もいるようですが、あなたが嫌悪している人権と憲法の人権を混同すると大変なことになりますよ?


3,国が憲法を変えたいと言い出している意味を考えるべき

憲法は国民が国を縛る鎖だという話をしました。手綱だと。縛られているのは国です。その国が自分を縛っている鎖を変えたいと言い出しているとすれば、それはどういう意味なのかよく考える必要があると思います。手綱を緩めると馬は暴れだすかもしれませんよね。じゃじゃ馬なら暴れるでしょう。従順でよく懐いた馬なら、もっと速くもっと快適に走ってくれるかもしれないです。

私は憲法改正には反対じゃないです。鎖が緩んでいる箇所もあるし、錆びてる箇所もある。嵌め直しが必要なところや擦れて馬体に無理を強いているところもあると思います。でも、私たちは私たちが主人であり、体を預けている馬が暴れ出さないように手綱を持っている張本人だという意識を持って上手く前に進まなきゃダメだろうと思っています。

鎖を取り替えるなら、それは縛られている方ではなく縛っている私たちがその仕事を担うべきです。

*1:鞍が法律だという意味は考えてみてください。鞍が騎手に及ぼすメリットとデメリットを。

*2:自民党憲法起草」委、事務局長、「礒崎陽輔」議員に関する法律関係者のコメント http://togetter.com/li/311536

*3:生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない--参議院議員世耕弘成 | トレンド | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト http://toyokeizai.net/articles/-/9611/

*4:片山さつき議員「芦部先生の直弟子」発言まとめ - Togetter http://togetter.com/li/419568

*5:余談ですが、生活保護で取り沙汰される「生存権」は自由権的な側面と社会権的な側面の両方を併せ持つと言われています。生きる権利は国があろうがなかろうが人間が持つべき権利として前国家的ですが、一方で社会保障として国家を介してこれを実現するための生活保護は国家の存在を前提としている点で後国家的です。

*6:11条や憲法第3章表題には「国民」とあるが、これが単に日本国民のみを指すのは不適切であり、日本国民のみを指すのではないという解釈は通説でありもはや常識と化しています。このような実際の運用と文言の齟齬を解消するために憲法改正は必要かなと私は思います。

【おしらせ】カズワタベ(kazzwatabe)さんをお呼びしてお話を伺う著作権勉強会特別編を開催します。


3月31日に著作権の勉強会を開催します。既に過去に何度かに渡って開催してきましたが、今回は【特別編】を開催しようかと思っています。ゲストの方をお呼びして、お話を伺う機会、作ってみたかったんですよね!

今回は、カズワタベさん(@kazzwatabe)に来ていただこうかと思っています。


なにを伺うか・・・この件についてです!

カズワタベ(@kazzwatabe )さんの楽曲が著作権侵害された件について まとめ - Togetter


大まかな顛末についてはコメント欄でご本人が報告なさっていますが、質疑応答も予定しつつ差し支えない範囲でお話を伺えられればなぁ、と考えております。

上記の事案の概要は、某テレビ局が報道番組のコーナーでカズワタベさんらが創作した楽曲が使われていたというものです。この楽曲は著作権JASRAC等の著作権管理団体に預けておらず、利用に際しては権利者から許諾を得る必要があったところ、カズワタベさんらは特に連絡を受けていなかったことから問題になったものです。

既に無事に和解?に至ったというウワサを聞いていますが、「音楽」の著作物についての権利関係やらJASRAC等の関係やテレビ局での利用やら、具体的な事案に沿って著作権法の理解ができるのではないかと思っています。

たくさんは無理ですが、ほんの少しばかり席に余裕があります。興味をお餅の方がいらっしゃいましたら、是非参加して頂ければと思います。この機会に勉強会にも興味を持って頂ければこれ幸い!

連絡はtwitterにて @sophizm にリプライを送っていただくか、
copibenあっとsophizm.com にメールを送ってください。


日時:3月31日 14時〜
場所:池袋駅そば
参加費:1,000円



なお、カズワタベさんの関係しているwebサービス「hopp」でもコミュニティを開設しています。
https://www.hopp.jp/sophizm/community
こちら、月額500円で勉強会に参加し放題のお得仕様になっていますので、是非利用くださいませ!

著作権法の勉強会を開催して思ったことと反省点。

0,導入

夏くらいから初心者向けに著作権の勉強会を主催しています。対象は、全く著作権法に触れたことがないけど、興味は持ってるって人。全三回で開催した勉強会が一段落したので小括してみようと思います。



1,キッカケ

キッカケは、6月に改正された著作権法で、違法ダウンロードに刑罰が科されることが確実になったから。著作権というのは、極めて生活に密接した法律だと思います。特にネットを使っている以上、これと触れずにいられることなどありえません。けれども、その接近の具合も意識されないまま規制が私生活に及ぼうとしている以上、それを放置してしまうのは一般人にとって極めてリスキーだと思うのです。また、ニコ動やyoutube、それにpixivなどのコンテンツ共有サービスではアーティストやクリエイターとユーザーの境界が曖昧で、二次利用も極めて曖昧になされている現状が、実は法的に危うい場合があるため最低限の知識でも身に着けておけば非商用のコンテンツ界隈がより健全にかつ活発に発展できるのではないか、と考えたためです。



2,勉強会の方法

とはいえ、私は著作権法の研究職に従事していたわけでも教職を経験しているわけでもないので、会を主催するについては気をつけなければならないことがいくつかありました。知識の内容は基礎的なところのみを対象としているためにさほど問題ではありません。しかし、それに対する評価や教え方というのは、ともすると思想的なものを含むため、ある程度慎重にしなければならないところです。そこで、今回の勉強会は文化庁が公開している著作権法のテキストを用いました。これはネットにpdfとして公開されているため無償で手に入れることができます。文化庁のテキストから離れないように気をつければ、思想的に偏ったものを仕込んでしまう可能性を和らげることができるはずです。また、参加者の負担を高めることは参加へのハードルを上げてしまう恐れもあったの、この方法を採りました。

文化庁のテキストは薄いので、該当箇所を一度読んでから参加してもらう形にしました。その場で読んでも構わないとは思いましたが、一度頭に入れておいてもらい、疑問などの当日に共有するようにしたかったからです。そして、当日はテキストにある内容を著作権法の「条文」に従って確認し、疑問や代表的な裁判所の判断を提供して、法律の中身を形作るようにしました。


3,反省点

全三回で、第一回の範囲を「著作者、著作物」、第二回を「著作権著作権の制限」、第三回を「保護期間、救済方法、判例」と区分けして行いました。が、しかし、詰め込みすぎた感があったと思います。あくまで基本的な部分のみを伝えるつもりでしたが、それでも少し厚みがあったと思います。もう少し表層的な部分に押しとどめる必要があるかもしれません。


4,改善方法

初心者向けの勉強会は繰り返し繰り返し行なっていきたいと考えています。微力ながら、多くの人の役に立てるように活動していきたいです。上記の反省点は次回で改善したいと考えています。さしあたって、次回からはテーマを決めて、そのテーマに沿った内容で会を開きたいと思います。例えば「音楽」と著作権法の関係であったり、「イラスト」と著作権法の関係であったり、「映画」と著作権法の関係であったりです。音楽をテーマにした場合、本筋では上映権や頒布権などの著作支分権は関係ないので、ざっくりと捨てちゃって必要な範囲で取り上げる形にできるかと思います。


5,判例勉強会

初心者向けの勉強会と並行して、判例の勉強会も開始しています。こちらは、最近の判例をキャッチアップできるようにすることが最終目標で、いまはそのための事前知識をつけるための基本的な判例を扱っています。


6,次回のお知らせ

次は年明けに二回目の初心者向け勉強会(第一回)を開催する予定です。日程は以下のとおり。もし少しでも興味が有るってかたは@sophizm宛に連絡いただければと思います。よろしくおねがいします。
・日付:1月20日
・場所:麹町
・テーマ:音楽