GOZKI MEZKI

@sophizm の上から涙目線

NHK『あまちゃん』のテーマを選挙カーが使うことについての著作権的検討

0,導入

まず、このエントリーは選挙カーで音楽を流すことが良いことか悪いことかを示すために書くわけではありません。ましてや、大友良英の意志を否定したり批判したりする意図も毛頭ないことをご理解ください。よろしくお願いします。

また本ブログは法曹関係者ではない個人の趣味ブログです。内容の正確性等は各々で判断してください。



1,事案の整理

社会現象化しているNHKの朝の連続テレビ小説あまちゃん」。その「あまちゃん」のオープニングテーマを作曲した大友良英さんのツイートと、それをエントリーに起こしたブログ記事が話題になっている。

https://twitter.com/otomojamjam/status/345394914206560256
https://twitter.com/otomojamjam/status/345396311446654976

あまちゃんの音楽を選挙公報に使っている政治家の方へ - 大友良英のJAMJAM日記 http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/20130614

大友良英さんはハッキリとあまちゃんのオープニングテーマを政治活動で使うことはやめてほしいと書いている。じゃあそれは著作権法的にそれは可能か。著作権をメインコンテンツとしてるこのブログらしく、それをここでは検討してみたい、というわけです。



2,著作権の状況

著作権法には「著作者人格権」「著作権」「著作隣接権」の大きく分けて3種類の権利がある。JASRACの作品データベース検索で確認すると、『あまちゃんテーマ*1』の作曲者は大友良英さんとなっている。そのためこの曲の著作者は大友良英さんであり、この曲に関する著作者人格権大友良英さんが持っていることになる。一方で、信託状況は「全信託」とされているため、著作権JASRACにある*2。つまり、『あまちゃんのテーマ』の著作権JASRACにあり、大友良英さんは著作権者ではないことになる。

選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流すというのは演奏にあたるため、著作権に関しては「演奏権*3」が問題になる場面と思われる。



3,大友さんは権利主張できるか

上で確認したとおり、『あまちゃんのテーマ』の演奏権を含む著作権を有しているのは大友良英さんではなくJASRACのようだ。大友さんは演奏権を持っていないため、演奏権にもとづいて法的に選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を用いることをやめさせるよう求めることはできないと考えられる。

一方で、大友さんが有している著作者人格権についてはどうか。はてなブックマークのコメントでも

仮にJASRACが許諾していたとしても著作者人格権は別扱いなはず。著作者が直接申し入れてもやめないなら裁判沙汰にできる案件だと思う。肖像権なら眞鍋かをりが政治ポスターに無断使用され(事務所は許諾)た事例が。2013/06/14

という意見があり、著作者人格権によってなにかを求めることができるか検討する余地はある。

著作者人格権とは「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種類からなる。このうち既に公表されているため公表権は問題にならない。氏名表示権はどうか。間違いなく選挙カーで『あまちゃんのテーマ』を流しているときに作曲者である大友良英さんの紹介を一々してはいないだろう。そのため氏名表示を怠っているとも言える。ただ、19条3項は

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

という例外事由を認めている。要件は「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」と「公正な慣行に反しない限り」の2つだ。条文を素直に読むと2つの要件はどちらも充足していなければならないように読めるが、ここは学説でも意見が分かれているようだ。BGMの場合は氏名表示を省略してよいという説*4、2つの要件は選択的でどちらかを充たせばよいという説*5などがあるようで、現実的にはこれを厳密に適用することは困難だろうというものがあるようだ。

次に同一性保持権についてはどうか。場合によっては都合のいい長さに切除したり、音楽にかぶせて演説をしたりして改変が加えられている可能性は十分ある。ただ同一性保持権についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は認められるため、こちらも問題にならないのではないかと想像する。



4,そもそも許諾を得ていたのか?

JASRAC著作権者であったとして、『あまちゃんのテーマ』を使った人や事務所はJASRACから許諾を得て、使用料を支払って使っていたのか、無断で勝手に使ったのではないか。という疑念は大いにある。しかし、各所で指摘があるように非営利の演奏については著作権の制限がかかっている。

第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(中略)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。

要件は、非営利・無料・無報酬。このうち営利性について争う余地がないわけではないといえなくもいないかもしれないが、顧客誘引性の観点やお金の流れから言ってちょっと無理筋ではないかと思う*6

なので、そもそもJASRAC管理だろうが著作権を大友さんが持っていようが、著作権の行使は難しい案件だと思う。




5,まとめ

大友良英さんも著作権的な観点については意識してらっしゃるであろうと思う。著作権という言葉は一度も使っていないし、文中においても"個人的にメールを出し、理解していただき、政治の広報に使うのをやめてもらいました"と丁寧に書かれているように、使わないでくださいとお願いしているのだ。お願いするのは自由だし、作者が嫌がってるのに権利侵害してないから使っていいだろ!ってなるのはギスギスしてて望ましくないと思う。作者がそう言っているなら、使わないようにしたほうがいいだろう。

ただ、流行の曲を使っている「候補者はクズ」という第三者のコメントの意味は全く分からない。






【追記】

https://twitter.com/karafuto1979/status/345530428976926720

*1:作品コード:192-4067-8

*2:「信託譲渡」といわれ、著作権の所有自体はJASRACに移りJASRAC著作権者であるが、その利用による利益はJASRACに信託した人に与えられる

*3:著作権法22条

*4:加戸守行「著作権法逐条講義」P167

*5:渋谷達紀「知的財産法講義 2」P197

*6:そういえば公職選挙法ではウグイス嬢に報酬を支払うことは許容されていたはずなので、ウグイス嬢が歌ってたらダメ