JASRAC「人間の背丈よりも大きいサーバーは、私的利用と認めない」を笑ってる場合じゃない
大型トラックに「藤原とうふ店(自家用)」って書いてたら、
いやいやおかしいだろwww …って思うでしょ。
0,導入
そう、それとこれとは話が違う。でもそれとこれとが違う話だと分かるのは、違うことが分かっているからにすぎない。サーバーとは何かが分かっていて、サーバーの大きさというものがどういう意味か分かっていて、私的利用云々と本来は関係ない尺度であることを分かっているから笑える。
分かってない人には、事の重大さは分かりやすいほうが分かった気にさせやすい。
鼻血が出たことが放射能と結び付けられるように、血液型が性格と結び付けられるように、白血病がワクチン接種と結び付けられるように。
その意味で、正しいか間違っているかではなく、この発言は戦略的に非常に厄介だ。
勘違いしないで欲しいが、私はJASRACを擁護するつもりはない。JASRACの主張を良しとする意図も毛頭ない。
しかし昭和63年以来、JASRACは司法という戦場で、地道に、細かく、緩やかに、かつ強引に判例を蓄積させ、今回の主張が牽強付会と言わせない程度に囲い込みを成功させてきている。
1,私的利用なのに徴収しようとするのはおかしいのか
クラウドサービス、利用者からしてみれば音楽データを他人と共有するわけじゃないんだから「私的利用」だ、と言う。だから、サービス提供者から著作権使用料を取ろうとするのはおかしいだろう!と。金髪の人もそう言ってた。
https://twitter.com/tsuda/status/491761497698074624しかし、利用の主体を拡張し続けてきた「カラオケ法理」という理屈、その始まりからして著作物の直接の利用者は非侵害だったではないか。
カラオケ法理とはなにか。昔、クラブ・キャッツアイというスナックがあった。そのスナックにはカラオケマシンが置いてあり、客はこれを使ってカラオケを楽しめた。カラオケ機による伴奏の演奏、それから客の歌唱、これらはどちらも著作権法が第38条に規定する通り、営利を目的としない上演等は権利者の許諾なくできる。客は営利を目的としてカラオケを歌ってるわけではないので権利者の許諾は必要ないし著作権使用料も払わなくていいはずだ。それに異を唱えたのがJASRAC。
結局、最高裁は
カラオケ装置と、被上告人が著作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを意図していたというのであり、かかる事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上告人らであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべき
として、カラオケを演奏してるのもカラオケを歌ってるのも営利を目的としたスナック店だ、と判断している。
利用者は合法じゃないか!という抗弁は昭和63年で既に瓦解している。
そこにダメ押しを打ってきたのが「まねきTV事件」と「ロクラク事件」だ*1。
まねきTVは、ネットワークを通して遠隔地でテレビを視聴できるようにしていたが、そこで使用されていた機器(ロケフリ)は利用者のもので、かつその機器と利用者は1対1の関係であったにも関わらず、全体として公衆に送信しているとしてサービス提供者を違法とした。
ロクラクはまねきTVのロケフリに近いが、こちらは録画機能があり、録画した映像をネットワークを通して遠隔地で視聴できるようにしたもの。これについて最高裁は以下のように述べている。
複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
注意すべきはこの理屈は全て「放送番組等」の複製について述べているのであって、それ以外のクラウドストレージサービス(ひいてはサーバ業務全般)にこの理屈がそのまま使われるわけではないだろいうということ。しかし、自炊代行業に対する最近の地裁判決で『枢要な行為』は用いられている。音楽専用クラウドサービスがこの理屈の射程に入る可能性は高いのではないだろうか。Dropboxなどの汎用型のクラウドストレージサービスまでは、もう一歩という感じですらある。
2,暴論はそれが狙いなのか
JASRACもその辺りは織り込み済みなのではないだろうか。音楽専用クラウドサービスに包括契約が必要なのは、もはや当然として、しかし汎用型の音楽以外の利用がなされているDropboxなどの汎用型クラウドストレージサービスにまで包括契約結べっていうのは無茶だ。加えて中身を確認しろ*2というのも通信の秘密から言って無理な話だ。それじゃあ仕方ない、仕方ないから
補償金で手を打とう
という着地点まで見据えての暴論でしょ。
じゃあどうしたらいいのか。正直分からない。少なくともクラウドストレージから使用料や補償金を徴収できるようにしたって「文化の発展に寄与」しないことは確かだろう。それを含め、多くの人に著作権法というものがどういうものか知ってほしい。JASRACがどういう組織か知ってほしい。JASRACの主張は確かにおかしいことも多い。しかし業務自体は私たちに大きな恩恵をもたらしているのも事実。批判すべきところは批判すべきだろうが、JASRACだからというだけで短絡的に全て批判する姿勢は、思考停止に等しいと知ってほしいものだ。