ゲーム実況動画の公認化が中古ゲーム市場を脅かす
かもしれない。
0,導入
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。
1,ゲーム実況動画の公認化
任天堂は12月1日より、ニコニコ動画の「クリエイター奨励プログラム」に参加する。これにより任天堂タイトルを使った「ゲーム実況」動画をはじめ、「弾いてみた」や「描いてみた」などの二次創作動画が“公認”されることになる。
【速報】ニコニコ動画でついに任天堂タイトルの投稿“公認”へ 対応タイトルは「マリオ」「ゼルダ」「ピクミン」など250本以上 - ねとらぼ
任天堂がゲーム実況動画などの二次創作動画を公認したそうです。
ゲーム実況動画と言えば任天堂よりソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のほうが先進的で、PlayStation®4では『シェア機能』というのがハード的に用意されているそうだ。
あなたがプレイしているゲームを、SHAREボタンひとつで配信できるPS4™なら、
プレイヤーが体験している興奮を、世界中の仲間と共有できます。
また、ユーザーがアップロードしたり配信したスクリーンショットやプレイ動画は、
PS4™はもちろん、スマホやタブレットを通じて閲覧、コメントすることができます。
PS4™シェア機能-SHAREボタンが、あなたと世界をつなぐ | プレイステーション® オフィシャルサイト
PS4のデフォルトの機能でゲーム動画をustreamで中継配信したり、プレイ動画をYoutubeにアップロードしたりすることができるわけだ。そして、このシェア機能の存在が、TVゲームの中古市場を脅かすのではないか、という疑念がある。著作権的な意味で。
2,中古ゲームを巡る著作権の問題
なぜシェア機能が中古ゲーム市場を破壊させかねないかという話の前に、中古ゲームに関する著作権法上の問題について書いてみる。
TVゲームに関しては、著作権法上少々厄介な問題がある。著作権法には著作物についていくつかの例示*1があって、
- 言語の著作物
- 美術の著作物
- 音楽の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
などなど、だ*2。
で、まずはTVゲームが何の著作物なのか?というところが問題になった。いや、普通に考えればプログラムの著作物ですよね。私もそう思います。ホント。ところが、いくつかの裁判では原告著作権者がTVゲームを映画の著作物だと主張し、裁判所がこれを認めています。例えばある最高裁判決*3では
- バイオハザード2(カプコン)
- ツインビーRPG(コナミ)
- パラサイト・イブ(スクウェア)
- 鉄拳3(ナムコ)
- グランツーリスモ(ソニー・コンピュータエンタテインメント)
- ワールドカップ'98 フランス(セガ)
なんかが映画の著作物と認定されている。
さて、例示されたいくつもの種類の著作物の中で、映画の著作物だけは特別な規定を持っている。なのでプログラムの著作物ではなく映画の著作物と認められることは非常に大きな意味を持つわけだ。具体的にここでは譲渡に関する規定を取り上げたい。
著作権法では譲渡に関する規定が置かれている。譲渡権(第26条の2)がそれで、譲渡に関する権利を著作権者が専有しているため、著作物の譲渡に際しては原則として著作権者の許諾が必要になる。譲渡とは有償無償を問わず所有権を移転させることなので、自分が持っているマンガやゲームやCDを他人に売ったりあげたりするには原則として著作権者の許諾が必要なはず。ところが、私たちは日常生活でマンガやゲームやCDを他人に譲るときに著作権者からいちいち許諾を得るようなことはしていないですよね。これは著作権法が例外規定を置いていて、一度著作権者から許諾を得て適法に市場に流通された著作物に関しては譲渡権が消え(消尽*4)、著作権者の許諾がなくても譲渡できるから。
ところが!
ここからがアレなんだけど、譲渡権の規定とその例外規定が適用されるのは映画の著作物以外の著作物についてで、映画の著作物はこの規定の適用を受けない。映画の著作物が適用されるのは譲渡権ではなく『頒布権』という権利。頒布権は簡単に言うと譲渡と貸与を一緒くたにしたもので映画の著作物に関しては譲渡であろうと貸与であろうとこの規定が適用される。
そして、頒布権には消尽の規定は存在しない。
そこで、映画の著作物では消費者が購入した映画のDVD*5を他人に譲ったり中古屋に売ったりするのに著作権者の許諾が必要で、許諾なく譲ったり売ったりするのは違法になってしまう、という問題が勃発した。これについて裁判所は
公衆に提示することを目的としない映画の著作物の複製物の譲渡については,当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。
として、消尽の規定が存在しない頒布権でも「公衆に提示することを目的としない」場合には消尽するという解釈を示した。
3,シェア機能はマズいんでないの?
映画の著作物と認められたTVゲームの中古販売についても、最高裁は「公衆に提示することを目的としない」場合には消尽するという判決を出している*6。TVゲームを中古売買しても咎められないのは「公衆に提示することを目的としない」からだ。
で、シェア機能だ。
判決は「公衆に提示することを目的としない」場合には消尽するとしか言っていない。シェア機能を備えたTVゲームは、公衆に提示することも目的としていることが明らかなので、もしかするとシェア機能を備えたTVゲームについて消尽が認められない結論が出る可能性も多分にあるかもしれない。
仮に消尽しないとすれば、シェア機能を備えたTVゲームは著作権者の許諾なく他人に譲ったり中古ゲーム屋に売ったりすることはできなくなる。ちなみに、裁判を見る限り、昔からゲーム会社は中古ゲーム売買を敵視しているように私は印象を持っている。ゲーム会社がこの変化に乗じて、再び中古ゲーム市場に対して打って出ることもありうるのではなかろうか。
3,自分なりの検討
A)「公衆に提示することを目的としない」とは
私は専門家ではないので、もちろん確たることなど何一つ言えないのだが、シェア機能が前提として持たれているゲームソフトは「公衆に提示することを目的としない」映画の著作物と言えるのだろうか。映画の著作物が譲渡権や貸与権ではなく頒布権の規定が置かれているのは、映画フィルムの配給制度が前提にあり密接に関係している。つまり、映画館や上映会などで不特定や多数の人に対して上映することを主眼に置いており、また昔は一本のフィルムが映画館を巡回して上映されていたために映画館から映画館に渡るたびに著作権者が金銭を得ることに合理性があっことから、頒布権という形式のものができたと聞く。
そのような趣旨に鑑みれば「公衆に提示することを目的としない」とは、「公衆に提示することを主たる目的としない」と解釈することはできる。もし「公衆に提示することを主たる目的としない」であれば、シェア機能を備えたTVゲームといえどもシェアが主たる目的でなく個人プレイが主目的である以上、消尽すると結論付けることはできそうだ。
B)判例が消尽を認める理屈
消尽に関して裁判所は一貫して特許法に於ける消尽理論を援用している*7。そして、消尽する理屈として以下の3つの事項を挙げていた。
- 著作権法による著作権者の権利の保護は,社会公共の利益との調和の下において実現されなければならない
- 仮に,著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害され,著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて,かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり,ひいては「著作者等の権利の保護を図り,もつて文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反する
- 著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない
以上の観点から、”公衆に提示することを目的としない映画の著作物の複製物の譲渡”については譲渡権が消尽すると理屈付けているわけだ。
このような観点からは、たとえ公衆に提示することも目的としていることが明らかであっても、市場における商品の円滑な流通を確保するため著作権の効力は再譲渡には及ばないという結論が妥当ではないかと思う。