うれぴあで弁護士の著作権解説がどう考えてもおかしい件
0,導入
うれぴあ総研というぴあが運営する情報サイトで『【著作権】どこからNG?「歌ってみた&踊ってみた動画」の違法ラインを弁護士が解説』という記事が配信されていた。
動画配信サイトにおける「歌ってみた」「踊ってみた」動画で、たびたび議論される『著作権』の問題。法律的に何がセーフで、何がアウトになの? 弁護士にその真偽を聞いた。
私も期待して読みに行った。というのも、最近は福井健策先生がCNETで『18歳からの著作権入門』シリーズを連載していたり、ネットにおける著作権との付き合い方を解説した記事がいくつも出てくるようになっていて、嬉しい傾向だなぁと思っていたからだ。しかししかししかし、読んでみて驚いた。これはひどい……と。
ホントに弁護士に話を聞いたのか?!
というレベルに酷い。メチャクチャじゃないか。
1,前提
”動画配信サイトにおける「歌ってみた」「踊ってみた」動画”という括りで著作権法上関係がありそうな権利は
- 複製権
- 演奏権
- 上演権
- 公衆送信権
- 翻案権
の5種類が主だったところだろうと思う。簡単に説明すると、録画や録音する行為は「複製」、音源を再生したり自分で弾いたり奏でたり歌ったりする行為は「演奏」、振り付けをマネして踊ったりする行為は「上演」、ネットに配信するのが「公衆送信」、編曲したりアレンジをするのが「翻案」といった具合だ。つまり
- 歌ってみた ←演奏
- 踊ってみた ←上演
- 動画 ←複製
- 動画配信 ←公衆送信
という具合にそれぞれの行為を分けることができる。
そしてこの全ての行為が「著作権法上問題ない」場合に限って、権利者の許諾なくしても大丈夫という結論になる。ところがこの記事ではいろいろとおかしい。
2,私的複製の理解がおかしい
個人使用の範囲という捉えられる可能性はあります。じつは、著作権には、例外的に規定されている「私的使用のための制限」が設けられています。
第五款の第三十条には、「個人的に又は家庭内その他これらに準ずる限られた範囲内において使用する」場合には、複製が認められているんですね。ただその先で、問題としては『投稿』という行為が当てはまるかどうかですが、直接、著作権を侵害しているとは言いがたいかもしれません。
いわゆる「私的複製」というやつです。これは文字通り「複製」に関する例外事由です。私的な複製行為については権利者の許諾が不要というもの。ここでいう複製とは、まさに動画を撮影すること。歌う行為は演奏で踊る行為は上演だけど、歌や踊りを撮影することは「複製」になる。で、撮影することを個人的に私的にするぶんには誰にも文句言われないのが私的複製。カラオケの練習で自分の歌声を録音してチェックしても誰も文句言わない。
問題は『投稿』が私的複製に当てはまるか判断しようとしていること。投稿とはつまり動画配信サイトのサーバーにアップロードする行為だ。アップロード自体は確かに複製だろう。しかしその動画が第三者からも見られる状態であれば、それは同時に『送信可能化』に当たるだろう。送信可能化とは公衆送信の一部で、実際に公衆に対して送信していなくても公衆に送信できる状態をいう。つまり公開サーバーに動画をアップロードするだけで公衆送信権を侵害しうる。そして、私的複製は公衆送信には適用されない*1。
さらに
歌っていたり踊っていたりする動画を何らかのメディアに焼くなどして販売する。つまり、利益を得てしまえば法律にふれる可能性はあります。
私的か否かの判断を利益の有無を判断基準に上げてます。これは斬新。斬新というか、利益の有無を基準にするのはフェアユースの論理に似ていますが、日本ではフェアユースは導入されていないので、独自解釈じゃないかと。もしかすると以下で挙げられる『営利を目的としない上演等』と混同しているかもと善意に解釈することもできるけど……。
それから
配信サイトでただその動画を配信するというだけならば、それぞれの個人が自宅などでやっているかぎりでは問題にならない
ここに至ってはもはや
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3,歌唱の理解がおかしい
アカペラについて記事では
少なくとも、作詞の部分にはふれると思います。音源が流れていないぶん、作曲の部分に引っかかっているというのは判断しづらいですね。
と書かれている。アカペラというのは歌詞の朗読ではないですよね。楽器の伴奏によらず、歌唱のみでメロディと歌詞を表現するものだと思うのですが??? ウィキペディアには”無伴奏で合唱・重唱を行うこと”とありますね。とにかく、メロディを奏でる以上、当然に作曲部分に引っかかる。
4,営利を目的としない上演等の理解がおかしい
利益を目的としない場合には、第三十八条に規定される『営利を目的としない上演等』にかかる可能性が強いため、配信自体は現状、違法とされたケースはほぼありません
非営利の行為について著作権法は一部の権利について権利者の許諾を不要としている。それが38条で、主だったところでは1項の上演、演奏、上映、口述と、4項の貸与だ。動画配信は公衆送信のため一部の例外を除いて38条の適用を受けない。非営利ならコンテンツをネットに流してもいいっていうなら、P2Pで映画を放流して捕まったり、サーバーにマンガのファイルを置いて逮捕されたりする人はでないわけだが、もちろんそんなわけもない。
5,もうすこし正しい解説を
大前提として、歌ってみたや踊ってみたを動画配信する場合に利用される配信サービスはYoutubeとニコニコ動画がほとんどだろう。両サービスともに、国内の音楽著作権管理事業者(JASRACとか)と包括で利用許諾契約をしている。そのため多くの場合、楽曲の利用はユーザーがいちいち許諾を取らなくても大丈夫な体制が整っている。ただし、楽曲と音源は異なり、音源の利用は許諾されないので注意しなくちゃいけない。
歌ってみたについては、歌うぶんには全く問題がない場合が多い。それは配信サービスが包括契約を結んでいるから。ただし、カラオケとして既存の音源(例えばCDのカラオケバージョン)を使う場合、その音源の「原盤権」をレコード会社等が持っているので、原盤権者の許諾なく動画配信してしまうとアウトだ。
踊ってみたについては、振り付けにも著作権が発生し、振付師が著作者となる。振り付けの著作権が振付師に帰属するのかレコード会社に帰属するのかそれともそれ以外のところに帰属するのか不明だが、許諾を得ないことには真っ白とは言いがたいので注意すべきだろう。
以下は記事のケースに従って検討してみる<ケース1> カラオケの音源を元に「歌ってみた」動画を配信
一般的にカラオケ店は、店舗の利用料金へ著作権に関わる使用料が加算されているので、あくまでも『個人が歌っている』のみならば問題はない
カラオケ店が得ている許諾は動画配信とは全く関係ないので、この理解は全くの間違いと思う。さらに、カラオケ店で使われるカラオケ音源はカラオケ配信業者のオリジナルの場合がほとんどなので、カラオケ配信業者から原盤権利用の許諾を得ないとアウトになる。<ケース2> 楽器を使用した弾き語り
包括契約を結んでいる動画配信サービスを利用する場合は、問題ない*2。<ケース3> アカペラで歌う
ケース2と同様<ケース4>音源を流しながらまったく異なる歌詞で歌う
音源を使ってるなら原盤権利用の許諾を得ないとアウトになる。
6,おしまい
弁護士が変なのか記事にまとめた記者が変なのかわからないけど
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..... | __ | ( ) どうしてこうなった・・・ | ||
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