著作権保護期間70年と「君が代」
著作権の保護期間が70年になるということ。
世界の平均寿命が68歳なので、著作権の寿命は平均的人生より長生きする。
著作権の保護期間が70年になるということ。
70年前になにがあったか。1941年、和暦で言うと昭和16年。東條英機が内閣総理大臣となり、東條内閣を組閣したのがこの年の10月。もちろん、戦争より前の話だ。ちなみに「君が代」に曲が付けられたのが明治維新後の明治13年(1880年)。
著作権の保護期間が70年だったら。
著作権の保護期間が70年だったら、君が代の著作権は、いつ切れていたのだろう。君が代の作曲者は林廣守*1と言われている。国旗及び国歌に関する法律に載っている譜面にも、林広守作曲と示されている。林廣守は1896年に亡くなっているので、1966年に君が代の著作権が切れる計算になろうか。東京オリンピックの2年後、特撮テレビドラマ『ウルトラQ』放映が開始された年でもある。
ところが、wikipediaによると君が世の曲は林廣守の単著ではなく、林廣守、奥好義、フランツ・エッケルトの共著、つまり共同著作物であったようだ。共同著作物の保護期間は、最後の著作者が亡くなってから70年ということになる。この3人の中で最も長命だったのは奥好義で1933年に亡くなっている。
1933年。
著作権の保護期間が70年だったら、君が代の著作権は2003年まで存続していた計算になる。2003年までは君が代を公衆で歌うことは著作権法第22条上演権を侵害していたかも・・・しれない。
もちろん、著作権法には権利制限の項目が用意されている。著作権法第38条第1項本文には次のように書かれている
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。
多くの国民にとって、国歌斉唱は営利を目的としないので上演権侵害にはならないだろう。しかし、一方で38条1項但書には、
ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
とあり、報酬を受け取って国歌を歌っていたアーティストなどは怪しいものだ。
著作権の保護期間が70年になるということは、明治の著作物が21世紀まで著作権が切れず利用が不自由に制限されるということだ。
ちなみに・・・。
著作権の保護期間が70年だったとしても、君が代は1999年以降、どのような使われ方をしようとも権利侵害とはなりえなくなった。なぜか。前述の国旗及び国歌に関する法律が制定され、君が代の楽譜が法令の一部となったからだ。著作権法は、権利の目的とならない著作物として法令を挙げている(13条1号)。そのため、君が代は1999年を以って著作権が存在しないことになったと考えられる。
もう一つ興味深いのは、君が代に著作権は1999年までは存在していたとして、法令が施行された途端にその著作権が消滅するのか否か。それは、遡及して消滅するのかその時点から以降消滅するのか。仮に消滅するとして、それは著作権という財産権の侵害にならないか。国歌を法定化することに公共の福祉目的が本当に存在するのか。気になるところだ。
*1:「林広守」と「林廣守」の揺らぎは出典その他の表記に由来します。