国語の教科書の作者写真に落書きしたら犯罪 〜ホントは怖い同一性保持権侵害〜
最近は、専門家が専門家ゆえに無責任には言えないことや、事実関係が明確じゃないから口を挟みにくいところに突っ込んで行くのが私の役目かなとか思いつつあります、こんにちは、sophizmです。いつものように誤っていたらごめんなさい。
0,導入
タイトルは結論部分。興味が無い人は4まで読み飛ばしてください。
1,事案
そのニュースが届いたのは昨夕(5日)のこと。内容は、海賊版ネットゲームをサーバに開設して正規のゲームとは異なるゲーム空間を作りだしてプレーさせたことが著作権違反に当たるとして神奈川県警が男性を逮捕したというものだった。ところが、このニュースはそのタイトルからして怪しいものだった。
オンライン海賊版ゲーム ユーザーも初摘発へ 神奈川県警 - MSN産経ニュース -
オンラインゲームのプログラムを不正に入手し、別のサーバー上で正規ゲームと同様のゲーム空間を作り出した上で多数のユーザーにプレーさせたとして、神奈川県警が近く、著作権法違反容疑でサーバーを管理していた大阪府八尾市に住む20代前半の男について、書類送検する方針を固めたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。
このゲーム空間が違法な“海賊版”と知りながらプレーしていた複数のユーザーについても同容疑で書類送検する方針で、ユーザーにまで同法を適用した摘発は全国初になるという。
模倣ゲーム、サーバー開設者と利用者初の摘発へ : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
オンラインゲームの利用者にエミュレーター(模倣)サーバーに接続させ、正規のゲームとは異なるゲーム空間を作りだしてプレーさせたとして、神奈川県警は近く、模倣サーバーを開設した大阪府八尾市の20歳代の無職男を著作権法違反(同一性保持権の侵害)ほう助などの容疑で書類送検する方針を固めた。
県警はゲームを利用したいずれも会社員の30歳代と40歳代の男2人も同法違反容疑で書類送検する方針。
ひとつはタイトルにある「利用者初の摘発へ」という点。今ひとつは、サーバ開設者が著作権法違反ではなく「著作権法違反の幇助」だということ。
1つ目のなにが疑問かというと、例えそれが海賊版であっても、「利用は(広義の)著作権を侵害しない」からだ*1。ユーザが海賊版を利用したことが著作権法上どのような問題があるのか、甚だ疑問だった。また、記事では「同容疑」「同法違反」とあるが、それが何を指すのか明らかでなく、同一性保持権侵害を指すのか、同一性保持権侵害幇助を指すのか、それとも包括的に著作権違反を指し前二者に関係のない容疑なのかも分からなかった。
2つ目の疑問点は、海賊版のプログラムをサーバに展開しこれを広く公衆に送信する行為は、まさしく「自動公衆送信」ど真ん中で「公衆送信権」を侵害する正犯とするのが素直な解釈なのに、なぜか神奈川県警は開設者を幇助という共犯、しかも公衆送信権侵害ではなく「同一性保持権」侵害という著作者人格権を根拠にしている。いかにも迂遠ではないか。
一夜明けて、昨日の報道通りユーザも書類送検された。また、追加報道により若干だが詳しい事実も明らかになった。
海賊版ゲームで大阪の無職男ら書類送検 全国初 - 芸能社会 - SANSPO.COM(サンスポ)
オンラインゲームの海賊版を作ってネット上で公開していたなどとして、神奈川県警は6日、著作権法違反(公衆送信権の侵害)と同幇(ほう)助(じょ)(同一性保持権の侵害)の疑いで、大阪府八尾市の無職の男(23)を書類送検した。また、海賊版でプレーしたとして、同法違反(同一性保持権の侵害)の疑いで、東京都内の男2人も書類送検した。県警によると、オンラインゲームの海賊行為と、それを利用したユーザーの摘発は全国初という。
明らかになったのは以下だ
海賊版ネットゲーム開設者
- 公衆送信権の侵害の正犯
- 同一性保持権の侵害の幇助
ゲームユーザ
- 同一性保持権の侵害の正犯
公衆送信権侵害の方はネットゲームの開設ではなく「自分のホームページでゲームのキャラクター画像を勝手に使用してユーザーを募っていた」ことらしいので、ここでは問題にしない。
しかし、まぁ、なんということでしょう〜!
ネットゲームのユーザが正犯で、ネットゲームの開設者が共犯?! 開設者が「別のサーバー上で正規ゲームと同様のゲーム空間を作り出した上で多数のユーザーにプレーさせた」んじゃないの??? 意味が分からなさすぎる。
2,想像と解説
正直、意味が不明すぎるが、いくつか無理矢理解釈できる可能性がある。ヒントは昨日の読売新聞の「模倣サーバーの仕組み」なる解説イラストだ。
このイラストでは、不正な利用者は正規サーバからプログラムをダウンロードしており、正規のものを正規でダウンロードしているのだから問題ないし、やはり模倣サーバの開設が問題じゃないのか、と最初思っていた。
しかし、ここで私が注目したのは、「プログラムの改変指示」という吹き出し。
県警によると、海賊版は「エミュレーター(模倣)サーバー」と呼ばれ、内容は同じだが、ゲームの進行速度やキャラクターの移動速度が速いなどの改変を加えられていた。
このネットゲームがどういう仕組みか分からない。正規サーバではなく模倣サーバに接続するための改変が加えられたであろうことは想像が付くが、プログラムの改変指示がゲームの進行速度やキャラクターの移動速度などの変更を指しているのかは明らかではない。ただ、仮にゲーム進行速度やキャラクターの移動速度などの変更がサーバに蔵置されたオンラインゲームプログラムではなく、利用者サイドのプログラムだとしたら、著作権クラスタならある裁判例を思い出さずにはいられない。
ときめきメモリアルメモリーカード事件、通称「ときメモ事件」だ。
1996年にコナミが自社の恋愛シミュレーションゲーム『ときめきメモリアル』の改変セーブデータを格納したメモリーカード「X-TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」を販売したスペックコンピュータに対して訴訟を起こした事件。『ときめきメモリアル』は、プレイヤーが高校の3年間をすごす主人公を操作し、卒業式の当日に意中の女生徒から愛の告白を受けられることを目指し能力を高めていくというシミュレーションゲームである。問題となったメモリカードでは、本来低い値から始まるべき主人公のパラメーターがゲーム開始当初から最高値であったり、卒業間近の場面から始められるデータが記録されていた。『ときめきメモリアル』は特にメインヒロインの藤崎詩織からの告白にたどり着くのは決して容易ではなく、コナミ側も開始当初からある程度高いパラメーター値で始められる裏技を用意していたほどであった。
ときメモ事件では、ゲームを外部的なプログラムを経由させることにより本来実現が困難な有利なパラメータを使わせることが問題になった事例だ。本件と異なる点は、ときメモ事件ではときメモというゲーム自体に改変を加えてはおらず、メモリーカードという外部要素を経由することもゲーム自体が想定していたことだった。
ときメモ事件に、今回の一件はよく似ているように見える。だとすれば、プログラムの改変が「同一性保持権」を侵害すると構成することも理解はできる。良いとは思えないが。ときメモ事件判決については、ときメモがプログラムの著作物ではなく「映画の著作物」だと認めた点、メモリーカードの内容にも関わらずゲームの改変とした点、侵害主体性を問題にしながら結局「共同不法行為」でざっくり侵害認定した点、すべてに不満だが、とりあえず置いておく。
ときメモ事件では、被告となったのはメモリーカード販売者であってユーザではない*2。ただ、ときメモ判決の前提としては、ユーザの侵害行為があることが間違いない。そして、侵害行為とは「同一性保持権侵害」。本件と同じだ。
恐らく、神奈川県警はときメモ事件に関する最高裁判決並びに大阪高裁の判断の趣旨を用いているのではなかろうか。これなら、確かにユーザは同一性保持権の正犯だし、開設者は同一性保持権の幇助という理屈が通る。
3,疑問
なぜ、同一性保持権なのか。
海賊版ネットゲーム開設自体を公衆送信権侵害の正犯とせず、ユーザを同一性保持権侵害の正犯とした上での幇助なのか。
以下は完全に想像だが、この「模倣サーバ」は海外サーバを用いていたのではなかろうか。海外サーバの場合、著作権法の属地主義の原則から、日本の著作権法の適用をすることができない。もちろん、海外サーバに海賊版のシステムをアップロードする行為が国内で行われていれば、それは複製権侵害などを構成しうる。しかし、たった一度のアップロード行為がいつ行われたか、どこで行われたか、本当に開設者が行ったかを立証するのは相当困難で、証拠を揃えることもできないだろう。そのため、開設して「プレーさせている状態」を問題にしなければならない。そこでこのようなヒネクレタ方法を採ったのではないかと想像する。
本命は、サーバ開設者だろう。
では、なぜユーザも書類送検したか。おそらく、ユーザを同容疑で起訴することはないと思う。あくまでサーバ開設者を本命として、しかしサーバ開設者は「幇助」ゆえに正犯に関する被疑事実も揃えて送検しておいた、そういうところが妥当ではなかろうか。
4,同一性保持権の危険性
この事件で改めて露呈したのは、同一性保持権の危険性だ。なぜ同一性保持権が危険か。なぜなら、他の著作者人格権、著作支分権、著作隣接権、どれを取ってもこのような行為が権利侵害になることがないからだ。複製権は私的な複製を認めている。上映権、口述権、展示権は「公に」することが著作権であり、公にでない場合は権利の内容に含まれない。公衆送信権は文字通り公衆のみ、貸与権も公衆への貸与が権利の内容だ。譲渡権はそのような観念をする必要がないので問題にならない。
翻案権も同様だ。43条1号で私的複製は翻案利用を認めている。同一性保持権は翻案権とパラレルに理解されており、侵害に関する規範も同一である。著作者の有する翻案権、それが同一性保持権と考えても大きく外れてはいないと思う。
ところがだ、同一性保持権には「公に」の要件も「公衆」の要件も含まれていない。個人的に家でこっそりやっても同一性保持権侵害になるのだ。本件でプログラムの改変が翻案権侵害にならないのは、ユーザがユーザで個人的にこれを行なっており、改変したゲームプログラムを譲渡したり公開したりしていないからだ。しかし、同一性保持権侵害には該当する。
これはどういうことか。国語の教科書の作者写真に落書きしたら同一性保持権侵害になって犯罪だということだ。
お風呂場で鼻歌を歌ったら音痴でメロディーが改変されたら同一性保持権侵害か。「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は許されるので、音痴は「やむを得ない」からそれはセーフじゃないかな。でも、教科書の落書きはやむを得なくないからアウト。
同一性保持権って便利だなー。
【おしらせ】
全く著作権のこと知らないけど興味はあるって人向けにボランティアで「入門著作権法勉強会」というものを始めました。興味がある方はtwitterにて @sophizm にreply投げてください。どうぞ気兼ねなくよろしくお願いします。
youtubeを見て著作権侵害で逮捕されることは本当にないのか。
0,導入
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。
御存知の通り*1、先日、違法ダウンロードに刑事罰を科す著作権法改正案の修正案が自民党及び公明党によって提出され、衆議院並びに参議院にて賛成多数を得て可決された。今回の改正案の修正案が異例とも言える経緯を辿ったことは書いた。また、その内容が随分と不確定であることも書いた。
今回は、この法律改正が、どの程度影響が及ぶのか、youtubeを例に取って改正法の解釈検討を行なってみたい。なお、違法ダウンロード刑罰化の対象となるのは「録音」と「録画」であるが、特に問題にされる「録音」、、、つまり音楽に主眼を置く。
1,youtubeの権利処理について
著作権について
youtubeでは、音楽著作権は適切に処理されている。まず、2008年にyoutubeはジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)と国内で初めて包括利用許諾を締結しており*2、同年、イーライセンスと利用許諾契約を締結している*3。その後、JASRACとも利用許諾条件の合意に至っている*4。
つまり、CD化されているような一般的な楽曲は著作権利用許諾を受けており、「著作権」的に違法にアップロードされた音楽著作物というのはそう多くない。
レコード製作者の権利について
著作権については上述の通り権利処理されている。しかし、youtubeで権利処理されていないものがある。それは「著作権法」に定められているが「著作権」とは異なる権利で、「著作隣接権」と呼ばれる権利だ。音楽について言えば、最も重要なのは「レコード製作者の権利」だ。原盤権とも呼ばれる。
音楽をレコードやCD、音楽配信等の形で販売するためには、対象となる音楽を録音する作業に加え、録音レベルの調整やエフェクトの追加などの多くの作業(いわゆるマスタリング)が必要となる。その際、演奏者や歌手などの実演家、音楽の編集作業を行うマスタリングエンジニアなど、多くの人間が作業に関わり、それらの作業に伴う多額の費用が発生する。このような作業に必要な費用を負担する代わりに、最終的に完成した原盤に関する権利を取得する仕組みとして生まれたものが原盤権である。
そしてこの原盤権を持つのは、一般的にレコード会社といわれるところだ。
うたってみた
CDを音源とする音楽はレコード会社が原盤権を持っており、かつyoutubeは原盤権処理をしていないので、ユーザーがCD音源をyoutubeにアップロードするにはレコード会社の許諾を個別に受けておく必要がある。権利者の許諾を受けずにアップロードする行為は、著作隣接権を侵害する。
一方、楽曲を自分で演奏したり、自分で歌ったりしたものを録音した場合、その録音にかかる原盤権は録音をした人に発生し、当然レコード会社には発生していないので、録音した人が自らそれをyoutubeにアップロードしても著作隣接権を侵害しない。もちろん、著作権法も侵害しない。
まとめ
CD音源をyoutubeにアップロードする行為は著作隣接権を侵害し、アップロードされた動画は「違法コンテンツ」ということになる。なお、以下に出てくる条文は「著作権」についての条文だが、「著作隣接権」でも準用されているため、特に断りが無い限り条文で「著作権」という場合は「著作隣接権」を含むこととする。
2,違法動画の閲覧は違法ダウンロードじゃないのか
刑罰化以前から、つまりダウンロード違法化の議論がなされていたころからyoutubeの視聴はダウンロードじゃないのか、という指摘がなされていた。今回の刑罰化に際しても、その疑問が再度呈されることになっている。なにせ逮捕されちゃうかもしれないわけで。なにせ「二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金」に処されちゃうかもしれないわけで、他人ごとじゃない。
なぜ視聴が問題になるのか。
ダウンロードといえば「名前をつけて保存」とかそういうのを思い浮かべるが、youtubeではストリーミングだし特に保存行為をしているようには見えない。しかし、wikipediaによるとyoutubeのストリーミングは「プログレッシブダウンロード」と呼ばれ、パソコン内の一時フォルダに動画が「保存」されるようだ。キャッシュとしてPCの内に残る。そのため、形式的にはyoutubeを視聴するだけでコンテンツがパソコンにダウンロードされることになる。
文化庁も「違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A*5」に於いて、「「You Tube」などの動画投稿サイトの閲覧についても、その際にキャッシュが作成されるため、違法になるのですか。」という項目を置いて説明している。
これによると
違法ではなく、刑罰の対象とはなりません。
動画投稿サイトにおいては、データをダウンロードしながら再生するという仕組みのものがあり、この場合、動画の閲覧に際して、複製(録音又は録画)が伴うことになります。しかしながら、このような複製(キャッシュ)に関しては、第47条の8(電子計算機における著作物利用に伴う複製)の規定が適用されることにより著作権侵害には該当せず、「著作権又は著作隣接権を侵害した」という要件を満たしません。
という説明がなされている。
第47条の8があるから大丈夫(キャピ)と。
条文見てみましょう。
(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。
(平二一法五三・追加)
これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る
トートロジーっすね。見事に。
第47条の8によると、使用や利用が著作権侵害でない場合、一次キャッシュを作成することは許されるとしている。ちなみに、利用とは著作権の権利内容についてで、例えばコピーするとか上映するとか、貸すとかで、使用とは利用に限らず例えば読むとか見るとか住むとか聴くとかのことをいう。
ダウンロード違法化によって、私的使用であっても違法コンテンツだと知ってする複製は著作権を侵害することとなったため「利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合」には当たらなくなった。30条第1項第3号のせいで47条の8の適用が受けられなくなったのに、47条の8があるから30条第1項第3号には該当しないとか、いわゆるひとつの無限参照?
実際に逮捕されるかどうかは別にして、youtubeを見るのが犯罪にならないとは言い切れないと思います*6。
3,公式動画について
youtubeには音楽のPVなどが公式にアップロードされている場合がある。例えば
ワーナーミュージックの公式動画だ。だからこれを見たからといって犯罪になる可能性は全くない。
じゃあ、公式PVは違法コンテンツじゃないのだから、(キャッシュじゃなくて)動画を抜き出してダウンロードして保存してもいいのか。
後述する問題点を除けば、これは著作権法的な問題点は存在しない。
ただし、youtubeの利用規約に抵触する可能性がある。利用規約では「お客様は、本サービス自体の動画再生ページ、Embeddable Player、又はその他YouTubeが明示的に認めた手段以外のあらゆる技術及び手段を通じて、 本コンテンツにアクセスしないことに合意します。」*7とあり、また「お客様は、「ダウンロード」または同様のリンクが本コンテンツについて本サービス上でYouTubeにより表示されている場合を除き、いかなる本コンテンツもダウンロードしてはなりません。」*8と明記されている。
しかし、これについても疑問がないわけではない。利用者は「いつ利用規約に同意したのか」という点で。youtubeアカウントを取得していれば利用規約に同意しているだろうが、youtubeはアカウントがなくても視聴できるため、アカウント取得していない利用者が利用規約に同意する余地はないのではなかろうか。同意がなければ、当然、利用規約に拘束されるものではない。
なお、規約違反は契約違反であって犯罪にはならない。
ところで、、、、
約一年前にTUBEFIREというyoutubeの動画ダウンロード支援サイトがレコード会社30社および音楽出版社1社からダウンロードサービスの停止並びに損害賠償約2億3千万円を求める訴訟を提起されている*9。TUBEFIREはサーバサイドでyoutube動画を変換してダウンロード可能にさせているため、一時的にサーバに動画ファイルが複製される。またその複製物が送信可能状態に置かれており、これらが複製権及び送信可能化権を侵害していると主張されている。TUBEFIREは反論しているが、恐らく侵害は認められるのではなかろうかと思われる。*10
注意すべきは、TUBEFIREに動画ファイルが複製され送信可能化された時点でTUBEFIREサーバ内の動画ファイルは著作権を侵害する違法コンテンツになりうる。そのため、それをダウンロードする行為はyoutubeから直接ダウンロードするのとことなり「違法コンテンツのダウンロード」となり刑事罰適用の対象になる可能性がある。つまり、犯罪かもしれないということ。
もちろん、TUBEFIREは現在閉鎖されている。しかし、同様のサービスは他にもあると考えられる。このようなサービスを用いてダウンロードを行うことはリスキーであり、やめておくほうがいいと思う。しかもそれは国外のサーバ、国外のサービスであっても同じだ。なぜなら違法ダウンロードは「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む」からだ。
4,結論
私の考える結論。
公式PVなどを見るのは全く大丈夫。
非公式にアップロードされたCD音源やPVを見ると、犯罪にならないとはいいきれないかもしれない。こわい。
*1:という言い方が私は大嫌いだ
*2:YouTubeに初の音楽著作権包括許諾・JRC スピッツやラルクもOK - ITmedia ニュース
*3:イーライセンス、YouTubeに利用許諾 あゆ・倖田來未の一部楽曲、投稿可能に - ITmedia ニュース
*4:YouTubeがJASRACと契約 演奏動画、投稿可能に - ITmedia ニュース
*5:文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 著作権制度の解説資料 | 違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A
*6:文化庁 違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A: 壇弁護士の事務室
*7:4.C
*8:5.B
*9:動画ダウンロード支援サイト「TUBEFIRE」運営会社に対して侵害行為の差止めなどを求める訴訟提起 一般社団法人 日本レコード協会|プレスリリース
*10:ちなみにTUBEFIRE運営会社の社長が元JASRAC評議員で、「春一番」の作曲者としても有名だったのでネットでも一部で話題になった。参照:日本レコード協会から提訴された「TubeFire」、運営会社社長は元 JASRAC 評議員 | スラッシュドット・ジャパン
違法ダウンロード刑罰化規定が、著作権の保護にはほとんど役に立たないかもしれない件
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他誌掲載に際しての追記(2012/07/03 23:15)
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。また、下記解釈の是非に関わらず違法ファイルのダウンロードは「違法」です。違法行為を助長する意図はないことをご理解ください。
さらに、下記解釈には以下の懸念があります。
- 法令・省令で「有料著作物等」の定義が狭められ確定される可能性がある
- 著作隣接権についての解釈が別途必要である
施行前の条文で、今後状況が変わる場合もあります。
以上、追記
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煽り記事です。勘違いだったらごめんなさい。
0,導入
小倉先生のブログを読んでブッたまげた。同時に「まず条文に当たるべし」という基本を蔑ろにしていた自分が恥ずかしい。これほどまでウンコみたいな条文だとは思わなかった。
これはもしかすると、世紀のザル法かもしれない・・・。
法案の成立過程がいかに拙速で手続き的に不十分かは先日の記事に書いた。
だからなのか、この法文を書いた人は著作権のチョの字も理解できてないんじゃないだろうか・・・。
もしくは全くその逆か。
とりあえず、衆議院の議案には掲載されていなかった「修正案」である違法ダウンロード刑罰化の法案が、参議院の議案では掲載されているので、以下に載せる。
第百二条第九項第五号の改正規定の次に次のように加える。
第百十九条第一項中「場合を含む」の下に「。第三項において同じ」を加え、同条に次の一項を加える。
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
新設119条3項としては
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
相変わらず、条文自体を見ても意味がわからないことでお馴染みの著作権法らしい内容となっているので、「なかなか著作権法のこと、分かってるじゃないか」とか通ぶってみたのは内緒です。
同条文は、簡単に書くと
私的使用の目的をもつて、有償著作物等を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
となる。
ここで問題にしたいのは「有償著作物」なる概念だ。これが真にケシカランと私なんかは思うわけです。
1,著作権法の基本の基本
なぜケシカランかという説明の前に、著作権法の基本の基本について簡単に書いておきたい。具体的には「著作物」とはなにか、である。
法律用語には一般的に「モノ」という言葉を使うときに3種類を使い分けています。「もの」と「物」と「者」です。「者」は個人は法人などの人を指し、「物*1」は文字通り物体や物質などを指し、「もの」はそれ以外の場合に使われるかと思います。
そこで「著作物」といったとき、そこには「物」という文字が使われているので、著作物とはなんらかの物体を指すものと考える人も少なくないと思う。例えば
- 音楽の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか、
- 小説の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか。
前者であれば、おそらく「CD」そのものを思い浮かべた人がいるでしょうし、後者であれば「本」を思い浮かべた人がいるでしょう。
しかし、それは「著作物」ではないです。
著作権法は「無体財産権」の1つと云われ、文字通り体を持たない財産権で、いわゆる物体としての財産権とは異なるものを財産権と擬制しているところに価値がある。著作権法は台2条第1項第1号に於いて
著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの
と定義しており、著作物とは「表現したもの」です。
「表現したもの」
そう、「表現した物」じゃなくて「表現したもの」。つまり、本来「物」ではない「もの」を著作「物」としているのが著作権法。
では、「音楽の著作物」とは何か、「小説の著作物」とは何か。音楽で言えば、それはCDに入っているソレであり、楽譜として示されているソレであり、お風呂で鼻歌として発せられているソレ。小説で言えば、本に載っているソレであり、誰かが朗読して聞こえてくるアレも小説の著作物です。
つまり、著作物とは、それが載っている(化体している)物質、媒体に関わらず、その内容そのものそれ自体を指す。
2,有償著作物等のなにがおかしいか
新設119条3項は「有償著作物等を違法にダウンロードした」ときに刑罰を科すことになっています。そして、「有償著作物等」とは
録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。
と定義されている。
指摘したい要所を掻い摘むと
有償で公衆に提供され、又は提示されているもの
ここだ。
「有償で公衆に提供または提示される著作物」という概念はなんだ。
条文に即した説明をしたいと思う。
著作権法には譲渡権という権利が置かれてます。例えば、著作権者がCDを作って売るとき、「売る権利」を著作権者は持っている。ただ、条文には
著作物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
とは書かれていない。
著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。*2
とある。なぜなら、著作物は譲渡できないから。著作権は譲渡できる、譲渡権も譲渡できる、著作物の原作品又は複製物という物を譲渡することはできる。しかし著作物は譲渡できない。著作物は概念で、表現で、無体財産だから。
3,具体的な話
iTunesで有料配信されているAという曲があったします。そのAという曲が違法にアップロードされ、違法アップロードだと知りつつAをダウンロードしたとする。その場合、まさにここにいう場合に当てはまりそうだ。
他方で、同時に、公式PVがオフィシャルにyoutubeに上がっていたとします。このPVに含まれる曲AもまたAだ。iTunesで配信されているAとyoutubeのPVに含まれるAは『全く同一の著作物』のはずだ。ライブ音源だったとしても、同じAという曲である以上、『全く同一の著作物』でないといけない。ただし演奏が異なるならそれぞれ「実演等」は異なることになるが、ここでは著作物の同一性を指摘します。
同一著作物である以上、違法にダウンロードされたAがiTunesのAなのかPVのAなのか、はたまたそれ以外のAなのかを切り分ける術はない。なぜなら、すべてAという表現、概念、無体の財産だから。
小倉先生曰く
「有償」とは、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けることをいう。したがって、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けない場合には、広告収入等により利益を得る目的であったとしても、「有償」要件を満たさないことになる。
とのことなので、youtubeのAは無償で提供又は提示されているものといえます。
Aが同時に有償でも無償でも提供又は提示されている以上、「有償で公衆に提供または提示される著作物」という要件には当てはまらないはずだ。小倉先生は3説を提示してらっしゃるが、「AがAと異なりAと同じである」という考え方は「著作物」という概念上ありえないのじゃないかなと思う。
もっと辛辣なことを言ってみる。
違法アップロードされた曲Bが無料でダウンロードできている場合。仮にBがiTunesで有料配信していたとしても、Bは(違法と言えども)無償で提供又は提示されているわけだ。無償で公衆に提供または提示される著作物なのだから「有償」要件を満たさない、ということにもなりうる。*3
せめて譲渡権などの文言に倣って
としなかったのだろうか。
4,まとめみたいな
正直、よく分からないです。どうしてこのような条文になったのか、理解不能。売られている著作物とyoutubeに公式で上げられている著作物が「別の著作物」だという理解しかしていないような気がする。もしくは、私が間違っているか。私が間違っていなければ、CMで流れている音楽や、ラジオで流れている音楽も無償で提供又は提示された著作物なのだから、もはやテレビにもラジオにもyoutubeにもiTunesの試聴にも出てきていないような音源しか想定できないように思える。
結局、「有償著作物」のうち「著作物」に限って言えば、著作権者の権利保護にはほとんど役に立たないかもしれない。
著作隣接権については、また別の話。
日本版フェアユース成立過程との対比に見る違法ダウンロード刑罰化の異常さ。
0,導入
同法案には違法ダウンロード刑事罰化が潜り込んでいるが、違法ダウンロード刑事罰化の法案内容は政府提案の改正案ではない。政府提出の改正案を採決する直前に、自民党と公明党が刑事罰化を盛り込む修正案を提出し、修正案を含む改正案が可決された形になる。
違法ダウンロード刑事罰化は、自民党と公明党が推し進めたものだ。もちろん、民主党の側としても「消費税の増税案を通すため」という御題目のために「違法ダウンロード刑事罰化法案」の丸呑みをした点で責められるところが十二分にある。同時に、それを人質に刑事罰化を意地でも通した自公も責められよう。
さて、違法ダウンロード刑事罰化が政府提案の改正案ではない、と最初に書いたのには意味がある。つまり、今に至っては違法ダウンロード刑事罰化の日陰に隠れてはいるが、本来的に通そうとしていた著作権法改正案があったわけだ。
政府案では、
- いわゆる“写り込み”等に係る規定
- 国立国会図書館によるデジタル化資料の自動公衆送信に係る規定
- 公文書等の管理に関する法律に基づく利用に係る規定
- 技術的保護手段に係る規定
が含まれていた*1。
1,フェアユース規定の存在
ここで着目したいのは1の「いわゆる“写り込み”等に係る規定」だ。コレは何か。以前、『フェアユース』と呼ばれていたものだ。法案上の具体的内容を以下に見てみる。提出時の法案から引用したものだ。読み飛ばして構わない。
(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
(検討の過程における利用)
第三十条の三 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)
第三十条の四 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。
第三十一条の見出し中「複製」を「複製等」に改め、同条第一項中「この項」の下に「及び第三項」を加え、同項第一号中「全部」の下に「。第三項において同じ。」を加え、同項第三号中「図書館資料」の下に「(以下この条において「絶版等資料」という。)」を加え、同条第二項中「又は汚損を避けるため、当該原本」を「若しくは汚損を避けるために当該原本」に、「ための」を「ため、又は絶版等資料に係る著作物を次項の規定により自動公衆送信(送信可能化を含む。同項において同じ。)に用いるため、」に改め、同条に次の一項を加える。
相変わらず、条文自体を見ても意味がわからないことでお馴染みの著作権法らしい内容となっている。要するに3種類、
- 付随対象著作物の利用
- 検討の過程における利用
- 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用
細かいところは福井弁護士の説明に任せる*2として、これが「かつてフェアユースと呼ばれたもの」の成れの果てだ。
フェアユースとは何か。
著作権者の許諾なく著作物を利用しても、その利用が4つの判断基準のもとで公正な利用(フェアユース)に該当するものと評価されれば、その利用行為は著作権の侵害にあたらない。このことを「フェアユースの法理」とよぶことがある。
『権利制限の一般規定』とも言われる。ざっくり言うと、特定の事象に関わらず一般的にある要件を満たせば著作権者の許諾なく勝手に著作物を利用しても怒られない、ということ。「特定の事象に関わらず」というのが重要で、柔軟な運用が期待でき、法律制定時には予想もされなかった利用方法であっても、利用を制限されない可能性を担保できる*3。
翻って今回の法案に見られる「かつてフェアユースと呼ばれたもの」は、上記3点のみの利用を可能にしたに過ぎない。もはや「権利制限の一般規定」ではなく単なる『個別規定』でしかない。フェアユース導入の論議は、最終的に骨抜きになったと言える。
2,フェアユース規定成立への経緯
どのような経緯で骨抜きになったか。
発端は2008年に遡る。2008年4月に設置された「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」において検討がなされた。その結果、同年11月には「権利制限の一般規定(フェアユース)を導入することが適当」とする報告書がまとめられた。
これを受けて、翌2009年に知的財産戦略本部決定として「知的財産推進計画2009」において「導入に向けて早急に措置を講ずる」こととなった。また、同年5月からは文化審議会著作権分科会における検討が開始されている。分科会では、法制問題小委員会の形で7〜9月の会合で関連団体・企業の担当者を招き、立法事実の有無や導入の必要性の有無についてヒアリングを実施している。また、これに関するパブリックコメントも募集して、結果として94の法人・個人から254通の意見が寄せられていたようだ。
さらに翌2010年には、権利者団体やコンテンツプロバイダーなど一般規定に関連のある団体や企業を対象に、追加のヒアリングを行い最終報告を取りまとめている。なお、法制問題小委員会ではワーキンググループにおいて大学教授、弁護士、法務省検事、裁判官などの中立的立場の識者を集めて検討を行なっていた。
ところが、同年2010年12月、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会は最終的に権利制限の一般規定について、もはや一般規定と題目を建てるのは難しい程度に限定された最終まとめを公表した*4。ここに至って、知的財産戦略会議の提案とは裏腹にフェアユースが骨抜きにされることになった。
そして、このまとめに即した形で著作権法改正の政府案が作成、先日衆議院で可決された。
ここで重要なことはいくつかある。
- 概括的な計画の下、発案された
- 4年に渡る検討を繰り返してきた
- 中立的立場の識者による検討を行なってきた
- 権利者のみならず関係する団体や企業のヒアリングを行なってきた
- パブリックコメントを通じて国民の声に耳を傾ける態度を示した
といったところであろうか。
最終的に、骨抜きにされたことは、ここでは問題にしない。
3,違法ダウンロード刑罰化への経緯と対比
他方、自民公明がねじ込んで、可決させた「違法ダウンロードの刑事罰化」は、どのような経緯を辿ったか。
違法にアップロードされたコンテンツを、違法なアップロードだと知ってダウンロードすることが著作権侵害になったのは、2010年だ。ダウンロード違法化自体、喧々諤々の議論を得て法制化されている。今回は、それに刑事罰がついた形となる。
つまりたった2年で2年前には否定された刑罰化が実現されたわけだ。今回は、RIAJを始めとする音楽業界の権利者サイドが、杉良太郎を担ぎだして議員に直接大々的なロビーイング活動を行ったと言われている。
フェアユース規定との対比ではこうなる。
- 概括的な計画などの検討が国策レベルでされた実態はない
- 違法化から僅か2年、実質的なロビーイングは半年から1年程度
- 権利者サイドのロビーイングに基づき、権利者サイドの提出して違法ダウンロードの統計、並びに、権利者サイドが算出した発生損害額のみを拠り所にし、国や党や議員として自主的に統計並びに算出を行わなかった
- 中立的立場の識者や、利用者、関係する団体や企業へのヒアリングもない
- パブリックコメント募集などなく、権利者以外の声に耳を傾ける態度も示していない
この違法ダウンロードの刑罰化を主とする修正案、自民公明の発案に対して4月17日の民主党・文部科学部門会議では反対意見が多数占めたようで、このときは水際で食い止められた*5。自民公明が党レベルで決定した修正案を、民主党が潰した形になる。
5,〆
ここで示したように、違法ダウンロード刑罰化を巡る問題点というのは、小寺氏が指摘するような「議員立法だから」ということではない。
しかもこの改正は、議員立法で行なわれようとしている。国民の意見が反映されるチャンスはないのだ。権利者側は、タレントの杉良太郎氏を連れて議員を周り、オジチャンオバチャン議員を骨抜きにしている。そういうやり方で、効果があるかどうかわからないような法規制が行なわれて、日本という国は大丈夫なのか?
【特別寄稿】踏みにじられたユーザーの意見、暴走するダウンロード刑罰化 - 小寺信良(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス) -
『お前らもっとちゃんとよく考えろ!』
ということに尽きる。刑事罰化ですよ、今まで犯罪じゃなかったことが犯罪になるんですよ、下手したら犯罪者になって「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科せられるわけですよ。ちゃんと検討しましたか? 多くの国民が突然牢屋に入れられる危険に晒されるようになるわけですが、それで「文化の発展に寄与する」んですか? 「文化の発展に寄与する」ってなんですか? ちゃんと検討しましたか?
つまりそういうことです。
*1:引用:DVDリッピング違法化+私的違法ダウンロード刑罰化法案、衆議院で可決 -INTERNET Watch -
*2:著作権法改正でこう変わる――DVDリッピング規制、元・日本版フェアユース -INTERNET Watch - (実際の法案は異なるところがあるようだ)
*3:例えば、PCのキャッシュや、googleの検索結果のサーバ保持など厳密に言えば著作権侵害だが、フェアユースがあれば権利侵害を問われない可能性があった
違法化前に損害がなかったというのは詭弁なのか屁理屈なのか。
前回の日記でこう書いた。
違法ダウンロードが著作権者の権利を侵害し続けていたというのはウソだ。損害を与え続けているというのもウソだ。ダウンロード違法化は、合法だったダウンロードを「権利侵害」にし、「損害」と法定させたから権利侵害であり損害になったのであり、違法化の前後を問わず本質的に権利を侵害し損害を与える行為だったわけではない。
これに対して、twitterでこういう質問をいただいた。
知識ないからアレだけど、合法だった=損害はなかったってのは、言葉の問題じゃないのかな?と。法的に損害はなく、経済的倫理的には未知数、感情的には一部損害あったんじゃねってのが正確?違法ダウンロードが刑罰化されることについてd.hatena.ne.jp/sophizm/201204…
— asano masaruさん (@sarustar) 4月 19, 2012
また、ブコメでも屁理屈だという指摘をいただいた。確かに損害概念については端折って書いているため、言葉足らずな側面があるだろうことは予想していた。文章の長さと取っ付きやすさのため、ということでご容赦願いたい。
そこで今回はこの点について考えを書いてみたい。学問的な通説や実務的な価値観とは異なる場合もあるかと思いますが、一私感なので、ご指摘いただけるとありがたいです。
ダウンロードが2年前に違法化される前は、損害ではなかった。このことについて、以下の二点を挙げる。
1,損害は法定概念であること
著作権侵害に対して損害の賠償を求められる根拠は何か。これは端的に民法不法行為に基づく損害賠償請求だ。具体的には民法709条に基づくもの*1。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民事的な責任として、賠償請求されうる損害とは709条に明らかなように「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」ことによる損害だ。
前回書いたとおり、2年前に改正されて違法化される前は、私的なダウンロードは合法だった。それは著作権法30条*2によって著作権が制限されていたことに根拠がある。そのため、私的なダウンロードをされることは「他人の権利」も「法律上保護された利益」も侵害していない。権利を制限し、法律上の保護を明示的に否定していた行為だったからだ。
とりあえず損害が法定概念であるという前提に立てば、違法じゃないなら損害も発生し得ない。
ただ、感覚的に違和感があるのは理解できる。ここで言っていることは、刑法が出来る前は人を殺しても殺人罪じゃなかった、という類のものだ。民法がなければ、人が死んでも損害はなかったと言えるのか、とも言える。さらに、考え方次第では、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」かどうかは原因の問題であって、それの有無に関わらず「損害」というのは独立した概念ではないか、とも言える*3。
法的に損害はなく、経済的倫理的には未知数、感情的には一部損害あったんじゃね
というのは、おそらくそういう側面を指摘しているのではないかと思う。ただし、著作権に於いては、その側面を否定できるだけの根拠が本質的に備わっているはずだ。
つまり、著作権の財産性は何に由来するか、という点に。
2,無体財産権ということ
著作権は無体財産権だ。
「物体」として「存在」が法律の有無に関わらず明らかな「有体財産権」とは異なり、無体財産権は物体として存在が明確ではない。有体財産権は、人類がうまれて所有という概念が生まれたそのときから、土地はあり、物はあった。物が欠けたり、盗まれたり、亡くしたり、土地を奪われたりすれば、それは法律の有無に関わらず抽象的一般的な意味での「損害」として、歴然とそこにあったはずだ*4。
物に対する権利*5、特に分かりやすい所有権と対をなす概念としては「権利」というのがある。厳密には債権と呼ばれるが、契約上生じる権利だ。お金を貸したら返してもらう権利、働いたらお給料をもらう権利、などだ。これらも抽象的概念で物体としての存在が明らかではない。
しかし、著作権は「債権」ではなく前者の「物に対する権利」に類する地位を与えられている。
与えられている。
何によって与えられているか。著作権法だ。
著作物に対する権利は*6、著作権法という法律があって初めて生じるもので、著作権法が与えた権利だ。表現に法的に確とした財産的価値を与えているのは著作権法なのだ。
そこで、違法ダウンロードについて。私的なダウンロードが違法化される前は、著作権法はその行為を著作権者の法的に確とした財産的価値の埒外としていた。法律によって財産的価値が付与された著作物に対して、法律によって財産的価値が付与されていないものは、価値を侵害しようがない。当たり前のことだ。
合法ダウンロードに損害があったという主張は、それは俺のものじゃないし法律も俺のものじゃないって明言してるけど、でもやっぱり俺はそれが俺のものだと思うし気分的にもムカつくだろ常識的に考えて、って言ってるようなものなのよ*7。
著作権侵害を窃盗になぞらえるのは、ミスリードであり考えるチカラを奪う。物体であれば確かにそこにあるものだが、無体財産はそもそも確かにそこにあるかどうかも疑わしいということを忘れてはいけないと思う。
違法ダウンロードが刑罰化されることについて
著作権法の改正により、違法ダウンロードに刑事罰が適用される見通しが確定的になりつつあるようだ。
民主、自民、公明の3党は13日、違法にインターネットに配信されていると知っているのに音楽や映像などをダウンロードした場合に罰則を科す方針で大筋合意した。著作権保護の強化が狙い。政府が3月に国会に提出した著作権法改正案には盛り込んでいなかったが、3党で罰則を明記した同法案の修正案を近く議員立法で提出する。今国会で成立する見通し。
今日、刑罰化について意見を聞かれたので、各論として刑罰化は有り得べき道筋であるが総論としては文化の発展に寄与するという本来の目的に照らしてバランスを大いに欠いており反対、と答えた。しかし、各論についても有り得べき道筋だというのは違法ダウンロードが「違法である」からであって、私的複製の一部が違法化されたことについて個人的意見として納得できていないため、端的に言えば違法ダウンロード刑罰化には反対である。
以下、考えを書き綴っていく。
1,奪われた財産と権利 〜ダウンロード違法化(2010年)〜
私的なダウンロードが違法化されるということ。
かつて合法であったダウンロード行為が違法になるということはどういうことか。それはダウンロードが権利者にとって損害になるということだ。違法化前はそれは権利者にとって損害ですらなかった行為で、かつ原始的に規制されない自由な行為であるためユーザーにとって利益を得る行為でもなかった*1。
この点は重要で、ダウンロード違法化前の違法アップロード著作物のダウンロードは「合法」で「損害でない」のだ。仮に違法化以前の違法アップロード著作物のダウンロード数を違法ダウンロード数の推移として算入していたとすれば、そのデータは欺瞞である。損害はなかったのだ。
同時に、違法ダウンロードが著作権者の権利を侵害し続けていたというのはウソだ。損害を与え続けているというのもウソだ。ダウンロード違法化は、合法だったダウンロードを「権利侵害」にし、「損害」と法定させたから権利侵害であり損害になったのであり、違法化の前後を問わず本質的に権利を侵害し損害を与える行為だったわけではない。
ダウンロード行為の本質とはなんだったのか。
2,例外の例外の例外は例外の例外より強い理由が必要
著作権法は憲法上の「表現の自由」と密接な関係を有していることは言うまでもない。表現の自由は自由権の中でも中核的な権利の一つで、前国家的権利、つまり国家の有無に関わらず本質的に「自由だ」と言われている。著作権法は表現を制限している。歌を歌うことを禁止している。聞いた歌を楽譜に落とすことを禁止している。本を音読することを禁止している。絵を書き写すことを、文章を書き写すことを、その他もろもろの表現行為を一定のものに独占させて、それ以外のものが表現することを禁止している。それが著作権法。
もちろん、表現の自由は絶対不可侵ではない。だからこそ著作権法は存在し得るわけで、他人との利益の衝突やマクロなビジョンでの高度な政策的意図から表現の自由は規制を受ける。著作権法が表現の自由を規制できるのは、それが「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」ことを目的としているからだ。
ダウンロード、つまり複製は、本来本質として自由である(基本)
表現の自由の例外としての著作権法によってダウンロードは不自由になった(例外)
私的な範囲での複製(ダウンロード)は自由だ(例外の例外)
私的なダウンロードでも違法なアップロードだと知っていたら自由ではない(例外の例外の例外)
例外は厳密でなければならない。本来自由な権利を害する規定だから。例外の例外は厳密である必要はない。本来自由な権利を取り戻す規定だから。例外の例外の例外は、「例外の例外」よりも「例外」よりも厳密に規定されなければならない。なぜなら一度規制されたものをあえて例外として外しているにも関わらず、さらにその例外として再度規制しようとするから。
ダウンロード違法化は厳密な検討がなされたのか。「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」ための規制なのか。私は未だに甚だ疑問だ。ある権利者サイドの人はこう主張していたように記憶する。無断で、無料で、対価を払わずダウンロードするのは現実世界で言えば窃盗だ、泥棒だ、と。しかし違う。違法化前は、アップロードは窃盗で泥棒だがダウンロードは認められたものだ。大切な音楽を蔑ろにしている、という主張も聞かれた。倫理的にどうか、という問題提起だ。その問題提起は寝た子を起こす。人類の財産である文化を特定人に独占させるのは倫理的に許されて然るべきなのか、というドグマを。
3,たった2年
ダウンロード違法化が2010年施行だった。それからたった2年余り。当時、当分の間は刑罰化に踏み切ることはないと言って違法化を推し進めていた人たちが、その舌の根も乾かぬうちに刑罰化をかなり強引な方法で推し進めている。たった2年だ。2年目の違法ダウンロード数の詳細な集計も出ないタイミングで、実質1年の実績しか無いのにもかかわらず、刑罰化しなければ違法ダウンロードが抑止されないと言うのか。
繰り返す。2年余り前は違法ですらなかったのだ。2年余り前は損害すら発生していなかったのだ。
みんな、ダウンロードは悪いものであり続けたのにも関わらず未だにこんなにも野放しにされている、という口車に乗らされているが、ダウンロードが悪いものであり続けたのは2年余りでしかない。
ダウンロードは2年前に悪いものにされたのだ。
違法化は、ダウンロードが悪いものだったというお墨付きではない。
違法化の瞬間から悪いものになったというものだ。
悪いものだ!と言えば悪いものが減ると思っていたのだろうか。せっかくわざわざ作ってもらった「損害」はしっかり賠償して文化の発展に寄与するために取り返そうとしたのだろうか。ナントカマークはどうなった。
悪者退治はダレの仕事だ。
4,刑事罰の性質
それは被害者の仕事だ。
少し以前、「自衛隊は暴力装置」という言葉が問題になった。無知を披瀝して大臣叩きに躍起になってた人も少なからずいたが、国家とは暴力装置で最も恐るべきパワーの持ち主であることは間違いない。28000人以上の人間の自由を奪えるのも国家だし、人を殺せるのも国家だ*2。国家は最強の矛と最強の盾を持った存在で、しかも時々暴れる。暴れて困るのは国民で、民主主義であるが故に国家の飼い主は国民だ。飼い犬に手を噛まれないためには、飼い犬に必要な最低限のチカラのみを持たせるに限る。不精な飼い主が犬に新聞を取ってこさせるために、ドアを開ける用の爆弾を持たせる必要はない。
刑罰とは国家による暴力だ、武器だ。反抗不能の強制捜査を可能にし、なにもしていないと主張しても身体拘束を受ける余地を生む。そのため、国家による介在は最後の手段でなければならない。まずは当事者による解決(ア)、それでも無理なら国家による解決手段の提示(イ)、その上でどうしてもどうにもならないときに初めて国家による実力行使(ウ)がなされる*3。これが理想であり、基本であり、原則であり、例外はない。
刑法の謙抑性は、行使段階のみならず、当然制定段階でも発揮されるべきものだ。
まずは(ア)当事者による解決が図られるべきだ。ダウンロードに関して言えば、ダウンロードは違法ではないが、権利者を逼迫し、文化活動に支障を来す恐れがあるためにやめてほしい、といういわゆる「啓蒙活動」がこれに当たると思う。そして、これは確かにある特定業界では盛んになされていた。そこで芳しい成果を上げられなかったために(イ)国家による解決手段の提示、すなわちここではダウンロードの違法化がなされたものと考えて差し支えないと思う。そして、いま、(ウ)国家による実力行使が許容されようとしている。
(イ)が必要だったか、疑問に思うのは上記の通りだが、それよりも甚だ疑問なのは(イ)の成果が上がるようなことがしっかりとなされたのか、ちゃんの当事者である権利者が動いたのか、それでもどうしてもダメな状況まで追い詰められていたのか。この2年余り、どれだけの損害賠償事件を起こして(イ)のフレームを有効活用してきたのか。記憶に残るほど多くの民事裁判事件はなかったのではなかろうか。
なぜ、民事でなく刑事に頼ろうとするのか。
5,我が腹は傷めぬ
答えはきっと難しくない。訴訟費用のほうが多額にかかるからだ。ネットの向こうの実在の人物を探すことからしてお金がかかる。しかも、コピー技術が容易になって一般人でもコピーができるようになったため、著作権侵害は不当な利益を得ようとする業者から、一般人に広がった*4。賠償額がわずかであれば訴訟費用が賠償額以上になってただただ損するだけだ。賠償額が多額でもそれに見合う財産がなければただただ損するだけだ。
その点、刑事事件は気楽である。捜査費用も証拠保全の費用も訴訟係属の費用も全て税金が賄ってくれる。自分で探さなくてもネットの向こうの実在の人物も探してくれる。日がな一日釣り糸を垂らして釣れるか釣れないか食べれるか食べられないか分からないサカナを待つよりも、魚屋に行ったほうが脂の乗った美味しそうなサカナを買える。
もちろん、買うか買わないかは分からない。しかし、権利者が被害届を出すだけで自分たちでは煩わしく手間もお金も時間もかかる仕事を、しかも効果絶大な形で国が請け負ってくれるようになることは事実である*5。本来、負うべき負担者がそれを回避しようとしている。それはダウンロードが悪いことなのだから仕方のない事なのだ、ではない。それとこれとは話が別だ。
警察も検察も裁判所も、ごみ収集の公共サービスじゃないんです。
- 作者: 山田奨治
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