著作権法の勉強会を開催して思ったことと反省点。
0,導入
夏くらいから初心者向けに著作権の勉強会を主催しています。対象は、全く著作権法に触れたことがないけど、興味は持ってるって人。全三回で開催した勉強会が一段落したので小括してみようと思います。
1,キッカケ
キッカケは、6月に改正された著作権法で、違法ダウンロードに刑罰が科されることが確実になったから。著作権というのは、極めて生活に密接した法律だと思います。特にネットを使っている以上、これと触れずにいられることなどありえません。けれども、その接近の具合も意識されないまま規制が私生活に及ぼうとしている以上、それを放置してしまうのは一般人にとって極めてリスキーだと思うのです。また、ニコ動やyoutube、それにpixivなどのコンテンツ共有サービスではアーティストやクリエイターとユーザーの境界が曖昧で、二次利用も極めて曖昧になされている現状が、実は法的に危うい場合があるため最低限の知識でも身に着けておけば非商用のコンテンツ界隈がより健全にかつ活発に発展できるのではないか、と考えたためです。
2,勉強会の方法
とはいえ、私は著作権法の研究職に従事していたわけでも教職を経験しているわけでもないので、会を主催するについては気をつけなければならないことがいくつかありました。知識の内容は基礎的なところのみを対象としているためにさほど問題ではありません。しかし、それに対する評価や教え方というのは、ともすると思想的なものを含むため、ある程度慎重にしなければならないところです。そこで、今回の勉強会は文化庁が公開している著作権法のテキストを用いました。これはネットにpdfとして公開されているため無償で手に入れることができます。文化庁のテキストから離れないように気をつければ、思想的に偏ったものを仕込んでしまう可能性を和らげることができるはずです。また、参加者の負担を高めることは参加へのハードルを上げてしまう恐れもあったの、この方法を採りました。
文化庁のテキストは薄いので、該当箇所を一度読んでから参加してもらう形にしました。その場で読んでも構わないとは思いましたが、一度頭に入れておいてもらい、疑問などの当日に共有するようにしたかったからです。そして、当日はテキストにある内容を著作権法の「条文」に従って確認し、疑問や代表的な裁判所の判断を提供して、法律の中身を形作るようにしました。
3,反省点
全三回で、第一回の範囲を「著作者、著作物」、第二回を「著作権、著作権の制限」、第三回を「保護期間、救済方法、判例」と区分けして行いました。が、しかし、詰め込みすぎた感があったと思います。あくまで基本的な部分のみを伝えるつもりでしたが、それでも少し厚みがあったと思います。もう少し表層的な部分に押しとどめる必要があるかもしれません。
4,改善方法
初心者向けの勉強会は繰り返し繰り返し行なっていきたいと考えています。微力ながら、多くの人の役に立てるように活動していきたいです。上記の反省点は次回で改善したいと考えています。さしあたって、次回からはテーマを決めて、そのテーマに沿った内容で会を開きたいと思います。例えば「音楽」と著作権法の関係であったり、「イラスト」と著作権法の関係であったり、「映画」と著作権法の関係であったりです。音楽をテーマにした場合、本筋では上映権や頒布権などの著作支分権は関係ないので、ざっくりと捨てちゃって必要な範囲で取り上げる形にできるかと思います。
5,判例勉強会
初心者向けの勉強会と並行して、判例の勉強会も開始しています。こちらは、最近の判例をキャッチアップできるようにすることが最終目標で、いまはそのための事前知識をつけるための基本的な判例を扱っています。
6,次回のお知らせ
次は年明けに二回目の初心者向け勉強会(第一回)を開催する予定です。日程は以下のとおり。もし少しでも興味が有るってかたは@sophizm宛に連絡いただければと思います。よろしくおねがいします。
・日付:1月20日
・場所:麹町
・テーマ:音楽
JASRACが雅楽の公演に突っかかるのはおかしい!がおかしいたった一つの理由。
0,導入
タイトルは、一回やってみたかっただけ!
話題になってますね。
いつものとおり2ちゃんねるに拡散して、Yahoo!ニュースにもなっちゃってます。完全にJASRAC悪者だわ。でも、JASRACは普通に仕事しただけじゃないの?
幸いなことに、ツイートを投げた岩佐堅志さんが憤りつつも正確な日本語を使っているので説明がしやすいですが、おそらくJASRACはおかしくない。むしろこれを元にした2ちゃんねるのスレタイやまとめサイト、ニュース記事がおかしい。岩佐氏のツイートには”著作権使用料を請求”などとは書かれていない。
正しくは”著作権使用料を申告しろ”だ。
どう違うか。
著作権使用料を請求するということは、JASRACが管理している楽曲が当該公演で演ぜられたことがある程度確定しており、使用された楽曲に対する著作権使用料を支払えという要求だ。一方で「申告しろ」というのは、当該公演でJASRACが管理している楽曲を用いたのであればそれを申告しろ、という意味。その上で管理楽曲を用いていたのであれば著作権使用料が請求される。
ただJASRACが管理している楽曲を用いたかどうかの確認したに過ぎない。
2,JASRACは雅楽を管理していないのか
上のようにJASRACは著作権使用料を請求したわけでなく、JASRACが管理している楽曲を用いたかどうかの確認のために電話を入れたに過ぎないだろう。しかし、”千年前の音楽”である雅楽をJASRACが管理しているわけがないから、そのような問い合わせをJASRACがすること自体がおかしいという趣旨の批判も見て取れる。
上記のニュース記事でも
という記述がドヤ顔で書かれている。横道に逸れるがこれはやばい!著作権の保護期間はJASRACが定めているらしい!やばい!!
確かに著作権法は作家の死後50年を著作権の保護期間としている。雅楽は千年前の音楽だから保護期間50年の著作権をJASRACが管理しているわけがないのか。いや、そんなわけはない。クラシック音楽は6世紀頃からあるらしいが、だからといってクラシックの楽曲が全て著作権切れなわけがない。
雅楽というジャンルが千年前からあることと、その曲が千年前からあることは別だ。
公演で用いられた「雅楽」の演目に用いられる楽曲の作者がまだ存命で、または死後50年を経過していない場合はなお著作権は保護されている。JASRACにも雅楽の管理楽曲は登録されている。例えば武満徹氏の作曲した「秋庭歌」という楽曲はJASRACに信託されている*1。
*2
3,JASRACは何がしたかったのか
上述の通り、JASRACは岩佐氏の公演でどのような楽曲が用いられたかの確認がしたかっただけに過ぎないはずだ。雅楽を「がらく」と読むのは論外だし、上から目線というのは岩佐氏の印象だから如何とも言い難いが、JASRACは端的に通常の業務を行なっていただけだ。
むしろ、「雅楽のコンサートだからJASRACの管理楽曲は使われていないはずだ」という思い込みで業務を行うほうがよっぽど問題ではないか。どれだけ雅楽を作曲しても、JASRACは雅楽が千年前の音楽だから著作権はないはずだと言って請求しなかったら作曲者はトバッチリも甚だしいだろう。
”JASRACから電話掛かってきたのはこれで三度目”というところに絡んでいる人もいる。この点は明らかではない。今回、問い合わせられた公演について三度も電話がかかってきたのなら、演目を伝えたにも関わらずしつこく問い合わせを繰り返していたとすると、その意図は不明だ。しかし、岩佐氏の公演、過去の公演も含む通算として三度目であれば、それはなんらおかしいところはない。むしろ当然の業務であることは、上に書いた通りで責められるところがない。
どちらであるか、twitterで岩佐氏にreplyを投げており、返信があれば追記するが、おそらくは後者であろうと推察される。JASRACが著作権トロールかなにかと勘違いしてる人が多いのか知らないが、自分が管理していない楽曲の使用料を請求しようとするわけがないだろう。ヤクザじゃないんだから。
4,まとめ
「JASRACはムチャクチャなことしてる」という思い込みと
「雅楽に著作権があるわけがない」という先入観で、
あなたが嫌いなJASRACを叩けて楽しいですか?
本当にJASRACの何がダメなのか分かって嫌ってますか? なんとなく空気に流されて嫌って批判してませんか?
追記(2012/12/13 15:15)
わりと爆発してしまったので追記。
上にも書いてますが、雅楽を「がらく」と読むのは論外です。それに、公演の演目を普通に調べればある程度分かるだろうし、怠ったのかという指摘も最も尤も(ただしこれは抜き打ちでチェックかけていたのかも?)だと思います。で、当の岩佐氏が怒るのは理解できます。それはそれとして怒りが正当かというとちょっと違うだろう、と。加えて、それを傍から見てる人が嬉しそうに叩くのは全く違うだろう、と思うわけです。怒るのがおかしいとは言ってなくて、雅楽なのにJASRACが出張るのはおかしいというのはおかしいと、そう言いたいだけです。
保護期間延長は既にある著作権には何の創作的インセンティブも与えない
0,導入
2010年、ダウンロードが違法化された。
2012年、違法ダウンロードに刑事罰が付いた。
次は何か。
1,TPP
現在、日本は公式にTPPへの参加を目指している。私は総論としてのTPPには賛成ではあるが、各論、特に知財分野の内容については反対だ。著作権でTPPが与えるであろう影響は3点。
- 保護期間の大幅延長
- 非親告罪化
- 法定賠償金
このうち、保護期間の延長について。日本では映画を除いて著作権の保護期間は50年だ。映画の著作物の著作権は2004年に50年から70年に延長されている。TPP参加で映画の著作物以外も70年に延長するよう外的に求められるだろう。「公的に」「外国から言われて」というのに日本は弱い。
2,延長のさせ方がおかしい
延長そのものの是非はとりあえず置いておいて、延長のさせ方に異議を唱えたい。
延長のさせ方には大きく分けて3つの方法が考えられる。
2004年に映画の著作物の著作権保護期間延長で採られたのは1の方法だ。アメリカでもEUでも延長で採られた方法は1だ。「ミッキーマウス延命法」と揶揄されるところからも明らか。しかし、1が採られる理由は明らかではない。なぜ2ではダメなのか。むしろ、2であるべきではないのか。
著作権の保護期間を延長するとどのようなメリットがあるか。一番大きいのは長期に渡って保護され、子の代、孫の代までも見据えた収入の道を確保することによって、創作のインセンティブを高め、もって「文化の発展に寄与する」ことだろうか。
なるほど、一理あるようにも思える。たくさんお金もらえるならそれだけ創作を志す人が増え、人が増えれば文化の発展にも寄与するかもしれない。お金は大事だもんね。ただ、インセンティブが高められるのは延長後の創作のみだ。時が不可逆なら既にある著作権の保護期間を延長しても過去の創作にインセンティブを与えることはありえない。
大人に「テストでいい成績とったらボーナスあげる」って言っても小学校時代の成績は上がらない。
3,なんのための延長か
6年前の「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」のシンポジウムで保護期間の延長を強く主張する日本文藝家協会副理事の三田誠広氏は次のように述べている。
「保護期間が死後50年では、作家が若死にすると、著作権が切れる時点で奥さんやご子息がご健在な場合が多い。だから死後70年に延長すべきだ」
「(若死にした太宰治の著作権が切れそうになったころ)未亡人や娘の作家・津島佑子さんはどちらもご健在だった。津島さんは今後40年は生きるでしょうから、30年以上も著作権が切れた状態で生きていくことになる」
「著作権は個人の権利であり、個人の権利を平均値で語ることはできない。慎重な議論というが、議論しているうちに著作権が切れる遺族が出てきてしまう」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
「(年若くして倒れた)先人たちの遺族から『私の主人の著作権はあと数年で切れます』と訴えられたら、どんな気持ちがすると思いますか」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
と述べている。
この二人は保護期間延長推進で常に最前列で発言してきたように記憶している。しかしおもしろい。「これからの創作」ではなく「今までの財産をどう延命するか」に主眼があることを隠そうとしていない。
「多くの著作者はお金のためではなく、評価されたい、リスペクトを受けたいという夢を持って創作しており、それが創作意欲になっている」として、インセンティブという言葉はもっと幅広く捉えてほしいと訴えた。
「ヒアリングやこれまでの話を聞いていて、著作権法の基本的な構造を理解していない方があまりにも多いことに驚いた」
「議論している著作権の保護期間は、著作財産権の問題。リスペクトといった話は著作人格権の問題だ。世界的に見ても、期間の問題がリスペクトの問題であるといった話は聞いたことがない」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061213/256601/
というコメントが心に沁みる*1。
4,話題の天賦人権説と著作権
著作権は天に賦与された権利ではない。むしろ逆だ。著作権は国に賦与された権利なのだ。著作権に関与して、生業にしている人はおそらく意識していないだろうが、著作権というのは「表現の自由」に対する制約なのだ。表現の自由を含む自由権こそは前国家的に生まれながらにして人間が持っている「人権」で、著作権は許諾なくして自由な表現をすることができない人権制約と言える。その権利の制約は「文化の発展に寄与する」ことを目的とする範囲に於いて認められるに過ぎない。
創作のインセンティブに資さない既にある著作物の著作権保護期間を延長するということは、すなわちその延長の期間中の国民の表現の自由を侵害するということを意味する。国民の損失をもって著作権者の子どもや孫を養えというのだ。
5,まとめ
*1:ちなみに著作物の2次利用許諾が古いものほど取得が難しく、保護期間が延長されればさらに難しくなることについて三田氏は「保護期間延長で困る人もいることは確かだ」と語り、著作者不明の場合に利用できる裁定制度の手続きを簡単にすることや、権利者のデータベースを作り、簡便に許諾を取れるシステムを構築することなどを改めて提案している。そして、現に著作権団体17法人で組織する「著作権問題を考える創作者団体協議会」が2009年1月23日、権利者情報を提供するWebサイトを開設している。同サイトでは協議会の活動内容や提言のほか、権利者の所属団体を検索するデータベースを公開していたようだが、2012年12月10日現在、このサイトは消滅してる。どうするの?
アニメのキャプチャ画像をダウンロードすると違法になるの?
0,導入
いつもの屁理屈です。
服用には用法用量をご注意ください。
1,違法ダウンロード刑罰化とは
言うまでもなく10月1日にとうとう施行された違法ダウンロードの刑罰規定導入。どうにも杜撰な文言の条文だということは過去に指摘しましたが、今回も刑罰規定の不明瞭な部分と文化庁のQ&Aについて妄想してみたいです。
まずはいつもの条文
著作権法第119条第3項
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
省略します
私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金。
2,漫画本を撮影した動画は刑事罰の対象にならないらしい
文化庁による違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A(※pdf注意)では、Q2において
なお、例えば、市販の漫画本を撮影した動画が、刑事罰の対象に当たるのではないかとの問い合わせがありますが、漫画作品自体が録音・録画された状態で提供されているものではありませんので、有償著作物等には当たりません。
なる記載があります。
「漫画作品自体が録音・録画された状態で提供されているものではない」から有償著作物等には当たらないとのこと。有償著作物等とは、
- 録音され、又は録画された著作物又は実演等
- 有償で公衆に提供され、又は提示されているもの
と定義づけられている。
文化庁の解釈によると「有償で公衆に提供され、又は提示され」たときに「録音され、又は録画された著作物又は実演等」であれば有償著作物等で、それ以外は有償著作物等に当たらないということではないかと想像できます。
3,アニメのキャプチャ画像は有償著作物等か
では、アニメのキャプチャは有償著作物等か。ここでは当該アニメが既にDVDなどで市販されている(=有償で公衆に提供され、又は提示されている)ものを前提とします。
当該アニメは
- 録音され、又は録画された著作物
ですし、上記の通り
- 有償で公衆に提供され、又は提示されているもの
です。
この定義で言えば当然アニメは有償著作物等ということになる。
4,アニメのキャプチャ画像をダウンロードすると罰則があるか
端的に言えば、ない。「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を行った」という行為が処罰対象なので、画像のダウンロードは「録画*1」には当たらない。
5,漫画本を撮影した動画との違い
実際にはまずありえないが、例えばアニメのキャプチャ画像を動画撮影した場合、果たしてその動画が刑事罰の対象となるのか。上記の通り、アニメのキャプチャ画像は有償著作物等に該当する可能性があるし、それを動画撮影したものをダウンロードする行為は「「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録画」に当たるので、119条3項に該当しそうだ。
漫画の動画撮影はOKで、キャプチャ画像の動画撮影がNGだとしたら、なにか少しおかしいものを感じる。
6,余談
セル画はどうか。
もうここまでくると訳が分からない。セル画単体で見るとこれは絵画の著作物と言えるので、録画には当たらず有償著作物等ではないため、処罰の対象からは外れるように思える。一方でアニメという録画物の一部であるなら、それは録画に当たり有償著作物等になるのではないか。そもそも、キャプチャ画像は有償著作物等でセル画は有償著作物等じゃなかったり、キャプチャ画像は有償著作物等なのにセル画を写真に写したらそれは有償著作物等じゃなかったりとなると、なにがなんだか訳が分からない。
そもそもの原因は、有償著作物等の定義が自動公衆送信されているデータの形式ではなく、有償で販売されている際の形式を基準としているため、対象を狭める意図とは違うところで対象が変に広くなってしまう可能性があるのではないかと思う。
ちなみに、有償著作物等は音楽に関しては「録音」なので、楽譜のみ販売されている音楽の著作物を演奏したものを録画し、アップロードされたものをダウンロードしても、それは有償著作物等には当たらないために罰則の対象にならないはず。つまり、音楽の著作物では、有償著作物等とされるためには常に演奏/実演が伴っているということ。
7,まとめ
ホントによく分からない条文だと思います。
*1:録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
国語の教科書の作者写真に落書きしたら犯罪 〜ホントは怖い同一性保持権侵害〜
最近は、専門家が専門家ゆえに無責任には言えないことや、事実関係が明確じゃないから口を挟みにくいところに突っ込んで行くのが私の役目かなとか思いつつあります、こんにちは、sophizmです。いつものように誤っていたらごめんなさい。
0,導入
タイトルは結論部分。興味が無い人は4まで読み飛ばしてください。
1,事案
そのニュースが届いたのは昨夕(5日)のこと。内容は、海賊版ネットゲームをサーバに開設して正規のゲームとは異なるゲーム空間を作りだしてプレーさせたことが著作権違反に当たるとして神奈川県警が男性を逮捕したというものだった。ところが、このニュースはそのタイトルからして怪しいものだった。
オンライン海賊版ゲーム ユーザーも初摘発へ 神奈川県警 - MSN産経ニュース -
オンラインゲームのプログラムを不正に入手し、別のサーバー上で正規ゲームと同様のゲーム空間を作り出した上で多数のユーザーにプレーさせたとして、神奈川県警が近く、著作権法違反容疑でサーバーを管理していた大阪府八尾市に住む20代前半の男について、書類送検する方針を固めたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。
このゲーム空間が違法な“海賊版”と知りながらプレーしていた複数のユーザーについても同容疑で書類送検する方針で、ユーザーにまで同法を適用した摘発は全国初になるという。
模倣ゲーム、サーバー開設者と利用者初の摘発へ : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
オンラインゲームの利用者にエミュレーター(模倣)サーバーに接続させ、正規のゲームとは異なるゲーム空間を作りだしてプレーさせたとして、神奈川県警は近く、模倣サーバーを開設した大阪府八尾市の20歳代の無職男を著作権法違反(同一性保持権の侵害)ほう助などの容疑で書類送検する方針を固めた。
県警はゲームを利用したいずれも会社員の30歳代と40歳代の男2人も同法違反容疑で書類送検する方針。
ひとつはタイトルにある「利用者初の摘発へ」という点。今ひとつは、サーバ開設者が著作権法違反ではなく「著作権法違反の幇助」だということ。
1つ目のなにが疑問かというと、例えそれが海賊版であっても、「利用は(広義の)著作権を侵害しない」からだ*1。ユーザが海賊版を利用したことが著作権法上どのような問題があるのか、甚だ疑問だった。また、記事では「同容疑」「同法違反」とあるが、それが何を指すのか明らかでなく、同一性保持権侵害を指すのか、同一性保持権侵害幇助を指すのか、それとも包括的に著作権違反を指し前二者に関係のない容疑なのかも分からなかった。
2つ目の疑問点は、海賊版のプログラムをサーバに展開しこれを広く公衆に送信する行為は、まさしく「自動公衆送信」ど真ん中で「公衆送信権」を侵害する正犯とするのが素直な解釈なのに、なぜか神奈川県警は開設者を幇助という共犯、しかも公衆送信権侵害ではなく「同一性保持権」侵害という著作者人格権を根拠にしている。いかにも迂遠ではないか。
一夜明けて、昨日の報道通りユーザも書類送検された。また、追加報道により若干だが詳しい事実も明らかになった。
海賊版ゲームで大阪の無職男ら書類送検 全国初 - 芸能社会 - SANSPO.COM(サンスポ)
オンラインゲームの海賊版を作ってネット上で公開していたなどとして、神奈川県警は6日、著作権法違反(公衆送信権の侵害)と同幇(ほう)助(じょ)(同一性保持権の侵害)の疑いで、大阪府八尾市の無職の男(23)を書類送検した。また、海賊版でプレーしたとして、同法違反(同一性保持権の侵害)の疑いで、東京都内の男2人も書類送検した。県警によると、オンラインゲームの海賊行為と、それを利用したユーザーの摘発は全国初という。
明らかになったのは以下だ
海賊版ネットゲーム開設者
- 公衆送信権の侵害の正犯
- 同一性保持権の侵害の幇助
ゲームユーザ
- 同一性保持権の侵害の正犯
公衆送信権侵害の方はネットゲームの開設ではなく「自分のホームページでゲームのキャラクター画像を勝手に使用してユーザーを募っていた」ことらしいので、ここでは問題にしない。
しかし、まぁ、なんということでしょう〜!
ネットゲームのユーザが正犯で、ネットゲームの開設者が共犯?! 開設者が「別のサーバー上で正規ゲームと同様のゲーム空間を作り出した上で多数のユーザーにプレーさせた」んじゃないの??? 意味が分からなさすぎる。
2,想像と解説
正直、意味が不明すぎるが、いくつか無理矢理解釈できる可能性がある。ヒントは昨日の読売新聞の「模倣サーバーの仕組み」なる解説イラストだ。
このイラストでは、不正な利用者は正規サーバからプログラムをダウンロードしており、正規のものを正規でダウンロードしているのだから問題ないし、やはり模倣サーバの開設が問題じゃないのか、と最初思っていた。
しかし、ここで私が注目したのは、「プログラムの改変指示」という吹き出し。
県警によると、海賊版は「エミュレーター(模倣)サーバー」と呼ばれ、内容は同じだが、ゲームの進行速度やキャラクターの移動速度が速いなどの改変を加えられていた。
このネットゲームがどういう仕組みか分からない。正規サーバではなく模倣サーバに接続するための改変が加えられたであろうことは想像が付くが、プログラムの改変指示がゲームの進行速度やキャラクターの移動速度などの変更を指しているのかは明らかではない。ただ、仮にゲーム進行速度やキャラクターの移動速度などの変更がサーバに蔵置されたオンラインゲームプログラムではなく、利用者サイドのプログラムだとしたら、著作権クラスタならある裁判例を思い出さずにはいられない。
ときめきメモリアルメモリーカード事件、通称「ときメモ事件」だ。
1996年にコナミが自社の恋愛シミュレーションゲーム『ときめきメモリアル』の改変セーブデータを格納したメモリーカード「X-TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」を販売したスペックコンピュータに対して訴訟を起こした事件。『ときめきメモリアル』は、プレイヤーが高校の3年間をすごす主人公を操作し、卒業式の当日に意中の女生徒から愛の告白を受けられることを目指し能力を高めていくというシミュレーションゲームである。問題となったメモリカードでは、本来低い値から始まるべき主人公のパラメーターがゲーム開始当初から最高値であったり、卒業間近の場面から始められるデータが記録されていた。『ときめきメモリアル』は特にメインヒロインの藤崎詩織からの告白にたどり着くのは決して容易ではなく、コナミ側も開始当初からある程度高いパラメーター値で始められる裏技を用意していたほどであった。
ときメモ事件では、ゲームを外部的なプログラムを経由させることにより本来実現が困難な有利なパラメータを使わせることが問題になった事例だ。本件と異なる点は、ときメモ事件ではときメモというゲーム自体に改変を加えてはおらず、メモリーカードという外部要素を経由することもゲーム自体が想定していたことだった。
ときメモ事件に、今回の一件はよく似ているように見える。だとすれば、プログラムの改変が「同一性保持権」を侵害すると構成することも理解はできる。良いとは思えないが。ときメモ事件判決については、ときメモがプログラムの著作物ではなく「映画の著作物」だと認めた点、メモリーカードの内容にも関わらずゲームの改変とした点、侵害主体性を問題にしながら結局「共同不法行為」でざっくり侵害認定した点、すべてに不満だが、とりあえず置いておく。
ときメモ事件では、被告となったのはメモリーカード販売者であってユーザではない*2。ただ、ときメモ判決の前提としては、ユーザの侵害行為があることが間違いない。そして、侵害行為とは「同一性保持権侵害」。本件と同じだ。
恐らく、神奈川県警はときメモ事件に関する最高裁判決並びに大阪高裁の判断の趣旨を用いているのではなかろうか。これなら、確かにユーザは同一性保持権の正犯だし、開設者は同一性保持権の幇助という理屈が通る。
3,疑問
なぜ、同一性保持権なのか。
海賊版ネットゲーム開設自体を公衆送信権侵害の正犯とせず、ユーザを同一性保持権侵害の正犯とした上での幇助なのか。
以下は完全に想像だが、この「模倣サーバ」は海外サーバを用いていたのではなかろうか。海外サーバの場合、著作権法の属地主義の原則から、日本の著作権法の適用をすることができない。もちろん、海外サーバに海賊版のシステムをアップロードする行為が国内で行われていれば、それは複製権侵害などを構成しうる。しかし、たった一度のアップロード行為がいつ行われたか、どこで行われたか、本当に開設者が行ったかを立証するのは相当困難で、証拠を揃えることもできないだろう。そのため、開設して「プレーさせている状態」を問題にしなければならない。そこでこのようなヒネクレタ方法を採ったのではないかと想像する。
本命は、サーバ開設者だろう。
では、なぜユーザも書類送検したか。おそらく、ユーザを同容疑で起訴することはないと思う。あくまでサーバ開設者を本命として、しかしサーバ開設者は「幇助」ゆえに正犯に関する被疑事実も揃えて送検しておいた、そういうところが妥当ではなかろうか。
4,同一性保持権の危険性
この事件で改めて露呈したのは、同一性保持権の危険性だ。なぜ同一性保持権が危険か。なぜなら、他の著作者人格権、著作支分権、著作隣接権、どれを取ってもこのような行為が権利侵害になることがないからだ。複製権は私的な複製を認めている。上映権、口述権、展示権は「公に」することが著作権であり、公にでない場合は権利の内容に含まれない。公衆送信権は文字通り公衆のみ、貸与権も公衆への貸与が権利の内容だ。譲渡権はそのような観念をする必要がないので問題にならない。
翻案権も同様だ。43条1号で私的複製は翻案利用を認めている。同一性保持権は翻案権とパラレルに理解されており、侵害に関する規範も同一である。著作者の有する翻案権、それが同一性保持権と考えても大きく外れてはいないと思う。
ところがだ、同一性保持権には「公に」の要件も「公衆」の要件も含まれていない。個人的に家でこっそりやっても同一性保持権侵害になるのだ。本件でプログラムの改変が翻案権侵害にならないのは、ユーザがユーザで個人的にこれを行なっており、改変したゲームプログラムを譲渡したり公開したりしていないからだ。しかし、同一性保持権侵害には該当する。
これはどういうことか。国語の教科書の作者写真に落書きしたら同一性保持権侵害になって犯罪だということだ。
お風呂場で鼻歌を歌ったら音痴でメロディーが改変されたら同一性保持権侵害か。「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は許されるので、音痴は「やむを得ない」からそれはセーフじゃないかな。でも、教科書の落書きはやむを得なくないからアウト。
同一性保持権って便利だなー。
【おしらせ】
全く著作権のこと知らないけど興味はあるって人向けにボランティアで「入門著作権法勉強会」というものを始めました。興味がある方はtwitterにて @sophizm にreply投げてください。どうぞ気兼ねなくよろしくお願いします。
youtubeを見て著作権侵害で逮捕されることは本当にないのか。
0,導入
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。
御存知の通り*1、先日、違法ダウンロードに刑事罰を科す著作権法改正案の修正案が自民党及び公明党によって提出され、衆議院並びに参議院にて賛成多数を得て可決された。今回の改正案の修正案が異例とも言える経緯を辿ったことは書いた。また、その内容が随分と不確定であることも書いた。
今回は、この法律改正が、どの程度影響が及ぶのか、youtubeを例に取って改正法の解釈検討を行なってみたい。なお、違法ダウンロード刑罰化の対象となるのは「録音」と「録画」であるが、特に問題にされる「録音」、、、つまり音楽に主眼を置く。
1,youtubeの権利処理について
著作権について
youtubeでは、音楽著作権は適切に処理されている。まず、2008年にyoutubeはジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)と国内で初めて包括利用許諾を締結しており*2、同年、イーライセンスと利用許諾契約を締結している*3。その後、JASRACとも利用許諾条件の合意に至っている*4。
つまり、CD化されているような一般的な楽曲は著作権利用許諾を受けており、「著作権」的に違法にアップロードされた音楽著作物というのはそう多くない。
レコード製作者の権利について
著作権については上述の通り権利処理されている。しかし、youtubeで権利処理されていないものがある。それは「著作権法」に定められているが「著作権」とは異なる権利で、「著作隣接権」と呼ばれる権利だ。音楽について言えば、最も重要なのは「レコード製作者の権利」だ。原盤権とも呼ばれる。
音楽をレコードやCD、音楽配信等の形で販売するためには、対象となる音楽を録音する作業に加え、録音レベルの調整やエフェクトの追加などの多くの作業(いわゆるマスタリング)が必要となる。その際、演奏者や歌手などの実演家、音楽の編集作業を行うマスタリングエンジニアなど、多くの人間が作業に関わり、それらの作業に伴う多額の費用が発生する。このような作業に必要な費用を負担する代わりに、最終的に完成した原盤に関する権利を取得する仕組みとして生まれたものが原盤権である。
そしてこの原盤権を持つのは、一般的にレコード会社といわれるところだ。
うたってみた
CDを音源とする音楽はレコード会社が原盤権を持っており、かつyoutubeは原盤権処理をしていないので、ユーザーがCD音源をyoutubeにアップロードするにはレコード会社の許諾を個別に受けておく必要がある。権利者の許諾を受けずにアップロードする行為は、著作隣接権を侵害する。
一方、楽曲を自分で演奏したり、自分で歌ったりしたものを録音した場合、その録音にかかる原盤権は録音をした人に発生し、当然レコード会社には発生していないので、録音した人が自らそれをyoutubeにアップロードしても著作隣接権を侵害しない。もちろん、著作権法も侵害しない。
まとめ
CD音源をyoutubeにアップロードする行為は著作隣接権を侵害し、アップロードされた動画は「違法コンテンツ」ということになる。なお、以下に出てくる条文は「著作権」についての条文だが、「著作隣接権」でも準用されているため、特に断りが無い限り条文で「著作権」という場合は「著作隣接権」を含むこととする。
2,違法動画の閲覧は違法ダウンロードじゃないのか
刑罰化以前から、つまりダウンロード違法化の議論がなされていたころからyoutubeの視聴はダウンロードじゃないのか、という指摘がなされていた。今回の刑罰化に際しても、その疑問が再度呈されることになっている。なにせ逮捕されちゃうかもしれないわけで。なにせ「二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金」に処されちゃうかもしれないわけで、他人ごとじゃない。
なぜ視聴が問題になるのか。
ダウンロードといえば「名前をつけて保存」とかそういうのを思い浮かべるが、youtubeではストリーミングだし特に保存行為をしているようには見えない。しかし、wikipediaによるとyoutubeのストリーミングは「プログレッシブダウンロード」と呼ばれ、パソコン内の一時フォルダに動画が「保存」されるようだ。キャッシュとしてPCの内に残る。そのため、形式的にはyoutubeを視聴するだけでコンテンツがパソコンにダウンロードされることになる。
文化庁も「違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A*5」に於いて、「「You Tube」などの動画投稿サイトの閲覧についても、その際にキャッシュが作成されるため、違法になるのですか。」という項目を置いて説明している。
これによると
違法ではなく、刑罰の対象とはなりません。
動画投稿サイトにおいては、データをダウンロードしながら再生するという仕組みのものがあり、この場合、動画の閲覧に際して、複製(録音又は録画)が伴うことになります。しかしながら、このような複製(キャッシュ)に関しては、第47条の8(電子計算機における著作物利用に伴う複製)の規定が適用されることにより著作権侵害には該当せず、「著作権又は著作隣接権を侵害した」という要件を満たしません。
という説明がなされている。
第47条の8があるから大丈夫(キャピ)と。
条文見てみましょう。
(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。
(平二一法五三・追加)
これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る
トートロジーっすね。見事に。
第47条の8によると、使用や利用が著作権侵害でない場合、一次キャッシュを作成することは許されるとしている。ちなみに、利用とは著作権の権利内容についてで、例えばコピーするとか上映するとか、貸すとかで、使用とは利用に限らず例えば読むとか見るとか住むとか聴くとかのことをいう。
ダウンロード違法化によって、私的使用であっても違法コンテンツだと知ってする複製は著作権を侵害することとなったため「利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合」には当たらなくなった。30条第1項第3号のせいで47条の8の適用が受けられなくなったのに、47条の8があるから30条第1項第3号には該当しないとか、いわゆるひとつの無限参照?
実際に逮捕されるかどうかは別にして、youtubeを見るのが犯罪にならないとは言い切れないと思います*6。
3,公式動画について
youtubeには音楽のPVなどが公式にアップロードされている場合がある。例えば
ワーナーミュージックの公式動画だ。だからこれを見たからといって犯罪になる可能性は全くない。
じゃあ、公式PVは違法コンテンツじゃないのだから、(キャッシュじゃなくて)動画を抜き出してダウンロードして保存してもいいのか。
後述する問題点を除けば、これは著作権法的な問題点は存在しない。
ただし、youtubeの利用規約に抵触する可能性がある。利用規約では「お客様は、本サービス自体の動画再生ページ、Embeddable Player、又はその他YouTubeが明示的に認めた手段以外のあらゆる技術及び手段を通じて、 本コンテンツにアクセスしないことに合意します。」*7とあり、また「お客様は、「ダウンロード」または同様のリンクが本コンテンツについて本サービス上でYouTubeにより表示されている場合を除き、いかなる本コンテンツもダウンロードしてはなりません。」*8と明記されている。
しかし、これについても疑問がないわけではない。利用者は「いつ利用規約に同意したのか」という点で。youtubeアカウントを取得していれば利用規約に同意しているだろうが、youtubeはアカウントがなくても視聴できるため、アカウント取得していない利用者が利用規約に同意する余地はないのではなかろうか。同意がなければ、当然、利用規約に拘束されるものではない。
なお、規約違反は契約違反であって犯罪にはならない。
ところで、、、、
約一年前にTUBEFIREというyoutubeの動画ダウンロード支援サイトがレコード会社30社および音楽出版社1社からダウンロードサービスの停止並びに損害賠償約2億3千万円を求める訴訟を提起されている*9。TUBEFIREはサーバサイドでyoutube動画を変換してダウンロード可能にさせているため、一時的にサーバに動画ファイルが複製される。またその複製物が送信可能状態に置かれており、これらが複製権及び送信可能化権を侵害していると主張されている。TUBEFIREは反論しているが、恐らく侵害は認められるのではなかろうかと思われる。*10
注意すべきは、TUBEFIREに動画ファイルが複製され送信可能化された時点でTUBEFIREサーバ内の動画ファイルは著作権を侵害する違法コンテンツになりうる。そのため、それをダウンロードする行為はyoutubeから直接ダウンロードするのとことなり「違法コンテンツのダウンロード」となり刑事罰適用の対象になる可能性がある。つまり、犯罪かもしれないということ。
もちろん、TUBEFIREは現在閉鎖されている。しかし、同様のサービスは他にもあると考えられる。このようなサービスを用いてダウンロードを行うことはリスキーであり、やめておくほうがいいと思う。しかもそれは国外のサーバ、国外のサービスであっても同じだ。なぜなら違法ダウンロードは「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む」からだ。
4,結論
私の考える結論。
公式PVなどを見るのは全く大丈夫。
非公式にアップロードされたCD音源やPVを見ると、犯罪にならないとはいいきれないかもしれない。こわい。
*1:という言い方が私は大嫌いだ
*2:YouTubeに初の音楽著作権包括許諾・JRC スピッツやラルクもOK - ITmedia ニュース
*3:イーライセンス、YouTubeに利用許諾 あゆ・倖田來未の一部楽曲、投稿可能に - ITmedia ニュース
*4:YouTubeがJASRACと契約 演奏動画、投稿可能に - ITmedia ニュース
*5:文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 著作権制度の解説資料 | 違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A
*6:文化庁 違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A: 壇弁護士の事務室
*7:4.C
*8:5.B
*9:動画ダウンロード支援サイト「TUBEFIRE」運営会社に対して侵害行為の差止めなどを求める訴訟提起 一般社団法人 日本レコード協会|プレスリリース
*10:ちなみにTUBEFIRE運営会社の社長が元JASRAC評議員で、「春一番」の作曲者としても有名だったのでネットでも一部で話題になった。参照:日本レコード協会から提訴された「TubeFire」、運営会社社長は元 JASRAC 評議員 | スラッシュドット・ジャパン
違法ダウンロード刑罰化規定が、著作権の保護にはほとんど役に立たないかもしれない件
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他誌掲載に際しての追記(2012/07/03 23:15)
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。また、下記解釈の是非に関わらず違法ファイルのダウンロードは「違法」です。違法行為を助長する意図はないことをご理解ください。
さらに、下記解釈には以下の懸念があります。
- 法令・省令で「有料著作物等」の定義が狭められ確定される可能性がある
- 著作隣接権についての解釈が別途必要である
施行前の条文で、今後状況が変わる場合もあります。
以上、追記
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煽り記事です。勘違いだったらごめんなさい。
0,導入
小倉先生のブログを読んでブッたまげた。同時に「まず条文に当たるべし」という基本を蔑ろにしていた自分が恥ずかしい。これほどまでウンコみたいな条文だとは思わなかった。
これはもしかすると、世紀のザル法かもしれない・・・。
法案の成立過程がいかに拙速で手続き的に不十分かは先日の記事に書いた。
だからなのか、この法文を書いた人は著作権のチョの字も理解できてないんじゃないだろうか・・・。
もしくは全くその逆か。
とりあえず、衆議院の議案には掲載されていなかった「修正案」である違法ダウンロード刑罰化の法案が、参議院の議案では掲載されているので、以下に載せる。
第百二条第九項第五号の改正規定の次に次のように加える。
第百十九条第一項中「場合を含む」の下に「。第三項において同じ」を加え、同条に次の一項を加える。
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
新設119条3項としては
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
相変わらず、条文自体を見ても意味がわからないことでお馴染みの著作権法らしい内容となっているので、「なかなか著作権法のこと、分かってるじゃないか」とか通ぶってみたのは内緒です。
同条文は、簡単に書くと
私的使用の目的をもつて、有償著作物等を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
となる。
ここで問題にしたいのは「有償著作物」なる概念だ。これが真にケシカランと私なんかは思うわけです。
1,著作権法の基本の基本
なぜケシカランかという説明の前に、著作権法の基本の基本について簡単に書いておきたい。具体的には「著作物」とはなにか、である。
法律用語には一般的に「モノ」という言葉を使うときに3種類を使い分けています。「もの」と「物」と「者」です。「者」は個人は法人などの人を指し、「物*1」は文字通り物体や物質などを指し、「もの」はそれ以外の場合に使われるかと思います。
そこで「著作物」といったとき、そこには「物」という文字が使われているので、著作物とはなんらかの物体を指すものと考える人も少なくないと思う。例えば
- 音楽の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか、
- 小説の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか。
前者であれば、おそらく「CD」そのものを思い浮かべた人がいるでしょうし、後者であれば「本」を思い浮かべた人がいるでしょう。
しかし、それは「著作物」ではないです。
著作権法は「無体財産権」の1つと云われ、文字通り体を持たない財産権で、いわゆる物体としての財産権とは異なるものを財産権と擬制しているところに価値がある。著作権法は台2条第1項第1号に於いて
著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの
と定義しており、著作物とは「表現したもの」です。
「表現したもの」
そう、「表現した物」じゃなくて「表現したもの」。つまり、本来「物」ではない「もの」を著作「物」としているのが著作権法。
では、「音楽の著作物」とは何か、「小説の著作物」とは何か。音楽で言えば、それはCDに入っているソレであり、楽譜として示されているソレであり、お風呂で鼻歌として発せられているソレ。小説で言えば、本に載っているソレであり、誰かが朗読して聞こえてくるアレも小説の著作物です。
つまり、著作物とは、それが載っている(化体している)物質、媒体に関わらず、その内容そのものそれ自体を指す。
2,有償著作物等のなにがおかしいか
新設119条3項は「有償著作物等を違法にダウンロードした」ときに刑罰を科すことになっています。そして、「有償著作物等」とは
録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。
と定義されている。
指摘したい要所を掻い摘むと
有償で公衆に提供され、又は提示されているもの
ここだ。
「有償で公衆に提供または提示される著作物」という概念はなんだ。
条文に即した説明をしたいと思う。
著作権法には譲渡権という権利が置かれてます。例えば、著作権者がCDを作って売るとき、「売る権利」を著作権者は持っている。ただ、条文には
著作物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
とは書かれていない。
著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。*2
とある。なぜなら、著作物は譲渡できないから。著作権は譲渡できる、譲渡権も譲渡できる、著作物の原作品又は複製物という物を譲渡することはできる。しかし著作物は譲渡できない。著作物は概念で、表現で、無体財産だから。
3,具体的な話
iTunesで有料配信されているAという曲があったします。そのAという曲が違法にアップロードされ、違法アップロードだと知りつつAをダウンロードしたとする。その場合、まさにここにいう場合に当てはまりそうだ。
他方で、同時に、公式PVがオフィシャルにyoutubeに上がっていたとします。このPVに含まれる曲AもまたAだ。iTunesで配信されているAとyoutubeのPVに含まれるAは『全く同一の著作物』のはずだ。ライブ音源だったとしても、同じAという曲である以上、『全く同一の著作物』でないといけない。ただし演奏が異なるならそれぞれ「実演等」は異なることになるが、ここでは著作物の同一性を指摘します。
同一著作物である以上、違法にダウンロードされたAがiTunesのAなのかPVのAなのか、はたまたそれ以外のAなのかを切り分ける術はない。なぜなら、すべてAという表現、概念、無体の財産だから。
小倉先生曰く
「有償」とは、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けることをいう。したがって、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けない場合には、広告収入等により利益を得る目的であったとしても、「有償」要件を満たさないことになる。
とのことなので、youtubeのAは無償で提供又は提示されているものといえます。
Aが同時に有償でも無償でも提供又は提示されている以上、「有償で公衆に提供または提示される著作物」という要件には当てはまらないはずだ。小倉先生は3説を提示してらっしゃるが、「AがAと異なりAと同じである」という考え方は「著作物」という概念上ありえないのじゃないかなと思う。
もっと辛辣なことを言ってみる。
違法アップロードされた曲Bが無料でダウンロードできている場合。仮にBがiTunesで有料配信していたとしても、Bは(違法と言えども)無償で提供又は提示されているわけだ。無償で公衆に提供または提示される著作物なのだから「有償」要件を満たさない、ということにもなりうる。*3
せめて譲渡権などの文言に倣って
としなかったのだろうか。
4,まとめみたいな
正直、よく分からないです。どうしてこのような条文になったのか、理解不能。売られている著作物とyoutubeに公式で上げられている著作物が「別の著作物」だという理解しかしていないような気がする。もしくは、私が間違っているか。私が間違っていなければ、CMで流れている音楽や、ラジオで流れている音楽も無償で提供又は提示された著作物なのだから、もはやテレビにもラジオにもyoutubeにもiTunesの試聴にも出てきていないような音源しか想定できないように思える。
結局、「有償著作物」のうち「著作物」に限って言えば、著作権者の権利保護にはほとんど役に立たないかもしれない。
著作隣接権については、また別の話。